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Chapter 13: 最後の証言

書類の一枚目に書かれていた名前を見た瞬間、私の指が止まった。

「……美奈子?」

そこにあった名前。

それは、私が十年間「家族」と呼んできた人の名前だった。

部屋の空気が凍った。

美奈子は顔色を失った。

「違う……」

小さな声だった。

でも、その一言が逆に疑いを深めた。

父が立ち上がる。

「君島、これはどういうことだ」

君島は冷静な表情で答えた。

「俺も最初は信じなかった」

彼は机の上に書類を広げた。

「でも、調べれば調べるほど事実だった」

私は書類を見る。

そこには十年前の日付。

母が亡くなる前。

そして、その数週間後に行われた記録。

「これは……何?」

君島は私を見る。

「君のお母さんが残した調査記録だ」

私は息を飲んだ。

「母が?」

「由紀さんは、自分の事故について違和感を持っていた」

父が驚いた顔をする。

「そんな話、聞いていない」

君島は父を見る。

「お前には話さなかった」

「なぜ」

「由紀さんが止めたからだ」

私は首を傾げた。

「母が?」

君島は頷いた。

「彼女は言った。『隆司は自分を責めすぎるから、今は真実を知らせないで』と」

私は父を見る。

父は何も言えなかった。

君島は続けた。

「事故そのものは偶然だった」

私は少し安心した。

でも、君島の表情は変わらない。

「ただし、その前に一つ問題があった」

「何?」

「由紀さんの活動記録が改ざんされていた」

沈黙。

「誰かが、彼女を危険な場所へ向かわせるよう情報を書き換えた」

私は息を止めた。

「それをしたのが……美奈子さんなの?」

美奈子は涙を浮かべた。

「違う」

でも声には力がなかった。

「私は……」

彼女は震えた。

「私は書類を見つけただけ」

「何を?」

美奈子は父を見る。

「あなたのお父さんが隠していた資料」

父の顔が変わる。

「まさか」

美奈子は俯いた。

「私は怖かった」

「何が?」

「あなたのお母さんの影」

私は黙って聞いた。

美奈子は続けた。

「この家に入った時、私は分かった」

「何を?」

「隆司さんが、まだ由紀さんを失った場所から動けていないこと」

その言葉は、少し理解できた。

でも。

「だから私を利用したの?」

美奈子の目から涙が落ちた。

「……そう」

初めて認めた。

「あなたが優秀になるほど、あなたが由紀さんに似ていくほど、私は怖くなった」

私は胸が痛んだ。

「だから彩香を優先した」

美奈子は頷いた。

「あなたを傷つけるつもりじゃなかった」

「でも傷ついた」

私の声は震えた。

「ずっと」

美奈子は何も言えなかった。

その時、父が書類を手に取った。

「君島」

「何だ」

「なぜ今、これを出した」

君島は少し間を置いた。

「約束だからだ」

「誰との?」

君島は母の写真を見る。

「由紀さんとの」

私は驚いた。

「母と?」

「彼女は最後の日、俺に言った」

君島の声が静かになる。

「もし美月が、自分の力で立ち上がれる年齢になったら、全部渡してほしい」

私は母の写真を見た。

まただった。

母は最後まで私のことを考えていた。

「でも、なぜ今まで」

君島は答えた。

「君がまだ、自分の人生を歩く準備ができていなかったからだ」

その言葉に、私は少しだけ救われた。

私はずっと、真実を知らされなかったことだけを恨んでいた。

でも、誰かが守ろうとしていたことも事実だった。

ただ。

守る方法を間違えた人がいた。

その夜。

父は私の部屋の前に立っていた。

昔なら気づかなかった。

でも今は分かった。

父は何か言いたい時、いつもここで止まっていたのだ。

「入っていい?」

私は少し迷ってから頷いた。

父は部屋に入った。

そして机の上に、小さな箱を置いた。

「これは?」

「お前のお母さんからだ」

私は驚く。

「まだあるの?」

父は頷いた。

「最後の手紙だ」

私は箱を開けた。

中には一枚の封筒。

表には一言。

『美月が、自分を許せる日に』

私は震える手で封を開けた。

そして読み始めた。

数行読んだだけで、涙が落ちた。

なぜなら。

その手紙には、母が最後に父へ伝えた言葉も書かれていた。

『隆司へ』

『あなたが一番恐れていることを、私は知っています』

『でも、美月はあなたを失うことより、あなたが自分を閉じ込め続けることを悲しむでしょう』

私は顔を上げた。

父は泣いていた。

初めて見る父の涙だった。

そして手紙の最後。

そこには、母が予想していた未来が書かれていた。

『もし美月が卒業の日を迎えたなら』

『その日、あなたは必ず彼女の隣に立ってください』

私は息を止めた。

でも、最後の一文を読んだ瞬間。

さらに大きな衝撃を受けた。

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『ただし、その前に美月へ伝えなければならない秘密があります』

『彼女には、もう一人家族がいることを』

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