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Chapter 5: 母が残した最後の言葉

祝賀会が終わった後、学校長の部屋へ案内された。

窓の外では雨が弱く降り続いていた。

まるで朝から続いた出来事を静かに洗い流しているようだった。

部屋には学校長、田村教官、そして父がいた。

私は父の向かい側に座った。

以前なら緊張して何も言えなかった場所。

でも、今は違った。

「話してください」

私は学校長に向かって言った。

学校長はゆっくり頷いた。

「君のお母さんは、生前、防衛大学校の関係者と交流があった」

私は驚いた。

母は普通の人だったと思っていた。

「母が?」

「君のお母さんは、人を見る目があった」

学校長は机の上に古い封筒を置いた。

「これは、君が18歳になった時に渡すよう預かっていたものだ」

私は震える手で封筒を開けた。

中には一枚の手紙があった。

見慣れないはずなのに、なぜか懐かしい字だった。

母の字。

「美月へ」

その二文字だけで涙が出そうになった。

私はゆっくり読み始めた。

『もしあなたがこの手紙を読む日が来たなら、きっとあなたは自分で大きな道を選んでいるでしょう』

『あなたは昔から、人の痛みに気づく子でした』

『でも、一つだけ約束してほしいことがあります』

『誰かに愛されるために、自分の価値を証明し続けないで』

私はそこで手を止めた。

胸の奥を見抜かれたようだった。

母は続けていた。

『あなたのお父さんは、不器用な人です』

父が俯いた。

『でも、美月。あなたが生まれた日、彼は泣いていました』

私は父を見た。

父は目を合わせなかった。

「嘘……」

思わず声が漏れた。

「そんな姿、見たことない」

父の指が震えた。

学校長が静かに言った。

「君のお父さんは、君を愛していなかったわけではない」

私は顔を上げた。

「じゃあ、なぜ?」

言葉が強くなる。

「なぜ一度も見てくれなかったんですか」

父は長い沈黙の後、口を開いた。

「怖かったんだ」

その答えは予想外だった。

「何が?」

「お前が……母親に似すぎていたから」

部屋が静まり返った。

父は初めて本音を話していた。

「由紀は強い人間だった。誰よりも正しくて、誰よりも前を向いていた」

父は拳を握った。

「彼女を失った後、お前を見るたびに思い出した」

私は息を飲んだ。

「だから逃げた」

父の声は震えていた。

「仕事を理由にした。忙しいふりをした」

私は静かに聞いていた。

「でも、それは俺の弱さだった」

初めて聞く父の謝罪だった。

でも、すぐには受け入れられなかった。

四年間の孤独は、一言では消えない。

その時、ドアが開いた。

美奈子が入ってきた。

「あなた」

父が振り返る。

美奈子は私を見ると、少し困った顔をした。

「話を聞いたわ」

私は黙った。

美奈子は椅子に座った。

「美月」

その声には、いつもの冷たさがなかった。

「あなたが首席だなんて知らなかった」

私は答えなかった。

「でも……」

美奈子は言葉を詰まらせた。

「彩香に渡した招待状のこと、本当にごめんなさい」

私は彼女を見る。

謝罪。

初めてだった。

しかし、その瞬間。

父のスマホが鳴った。

画面を見るなり、父の顔が変わった。

「誰から?」

学校長が尋ねる。

父は答えなかった。

ただ、震える声で言った。

「……昔の知り合いだ」

私は嫌な予感がした。

父が電話を取る。

数秒後。

彼は青ざめた。

「美月」

私を見る。

「お前の母親について、まだ知らされていないことがある」

私は立ち上がった。

「何?」

父はゆっくり言った。

「お前の母親が亡くなる前に、残した証言がある」

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そして父は、信じられない言葉を口にした。

「その証言には……俺が隠していたことが全部入っている」

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