Chapter 6: 隠されていた父の選択
翌朝。
私は学校の寮に戻ることなく、学校長から渡された資料を読んでいた。
父が隠していたこと。
母が残した証言。
そして、私が知らなかった家族の真実。
資料の一番上には日付があった。
十年前。
母が亡くなる直前の日。
「なぜ今まで見せなかったんですか」
私は父に聞いた。
父は窓の外を見ていた。
「見せる資格がなかった」
「資格?」
私は笑った。
「そんなものを決める前に、私に話すべきだった」
父は何も言えなかった。
資料には母の言葉が記録されていた。
『美月は、自分の力で未来を選ぶ子です』
『だから、誰かの期待のために生きさせないでください』
私は紙を握った。
母は私を信じていた。
なのに私はずっと、父に認められるために頑張っていた。
その日の午後。
私は校内の庭を歩いていた。
卒業した学生たちの声が聞こえる。
笑い声。
写真を撮る音。
普通なら幸せな一日だった。
でも私の中にはまだ整理できない感情が残っていた。
そこへ彩香が現れた。
「美月」
私は足を止めた。
彼女はいつもの明るい表情ではなかった。
「話したいことがある」
「何?」
彩香は手に持っていたものを差し出した。
私の招待状だった。
「これ……返す」
私は受け取らなかった。
「今さら?」
彩香は俯いた。
「私、知らなかった」
「何を?」
「あなたが答辞を読むこと」
私は黙った。
「お父さんが、あなたのことをそんなに知らないなんて思わなかった」
その言葉に少しだけ引っかかった。
「あなたも知らなかったでしょ」
彩香は目を伏せた。
「うん」
彼女は小さく答えた。
「でも……私も悪かった」
私は彼女を見る。
「私はいつも、自分が中心だと思ってた」
珍しく正直な声だった。
「お父さんもお母さんも、私を優先してくれるから」
私は何も言わなかった。
彩香は続けた。
「でも昨日、会場であなたの名前が呼ばれた時、初めて分かった」
「何を?」
「私が持っていたものは、あなたが欲しかったものだった」
その言葉は、少しだけ胸に残った。
でも、傷は簡単には消えない。
その夜。
私は最後の資料を開いた。
そこには父の署名があった。
内容を読んだ瞬間、息が止まった。
父は昔、私が防衛大学校へ進むことを反対していた。
それだけではなかった。
推薦を取り消すよう、学校側に連絡していた。
私は震えた。
「……嘘」
父が部屋に入ってきた。
私の顔を見るなり、すべてを察した。
「読んだのか」
私は紙を持ち上げた。
「これ、本当?」
父は目を閉じた。
「……ああ」
「どうして?」
沈黙。
そして父は言った。
「お前を失うのが怖かった」
私は首を振った。
「違う」
声が震える。
「あなたは私を守ったんじゃない」
父を見る。
「あなたは、自分が傷つくのが怖かっただけ」
父の顔が苦しそうに歪む。
その時、部屋の電話が鳴った。
学校長からだった。
私は出ようとしたが、父が先に取った。
数秒後。
父の表情が変わる。
「……分かりました」
電話を切る。
「美月」
嫌な予感がした。
「明日、記者会見がある」
「何の?」
父はゆっくり答えた。
「お前が受けるはずだった、ある栄誉について」
私は眉をひそめた。
「栄誉?」
父は私を見る。
「そして、その場で……俺が十年前にした決断が公表される」
その瞬間、私は理解した。
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卒業式は終わっていない。
本当の答え合わせは、これから始まるのだと。