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Chapter 2: 誰のための卒業式か

学校長は何も言わず、私の前に立った。

雨の中で、私を隠すように。

「来なさい」

低い声だった。

「君が入るべき場所は、あの入口じゃない」

私は涙をこらえながら首を振った。

「でも、家族が……」

「家族?」

学校長は一瞬だけ言葉を止めた。

「君の努力を知らない人間が、君の価値を決めるのか?」

その言葉で、胸の奥に閉じ込めていたものが崩れそうになった。

私は四年間、誰にも弱音を吐かなかった。

訓練で倒れそうな日も。

失敗して一人で泣いた夜も。

全部、自分で乗り越えるしかなかった。

関係者入口から入ると、空気が変わった。

学生たちが私を見る。

「来た」

「答辞担当の人だ」

小さな声が聞こえた。

私は知らなかった。

私がいないことで、すでに多くの人が心配していたことを。

控室に入ると、担当教官の田村が駆け寄ってきた。

「遅かったな」

「すみません」

「謝る必要はない」

田村教官は私の顔を見た。

「今日、君が読む言葉を待っている人がいる」

私は台本を握った。

そこには、何週間もかけて書いた文章があった。

父に伝えたかった言葉も少しだけ入っていた。

でも父は知らない。

私は舞台袖から客席を見た。

父は前列に座っていた。

私の席を奪った場所で。

背筋を伸ばし、満足そうに周囲を見ている。

彩香はスマホを構えていた。

「お父さん、ここすごいね」

「そうだろう」

父は笑った。

「家族として誇らしいな」

その会話が聞こえた瞬間、胸が痛んだ。

誇らしい?

誰を?

私ではない。

その時、司会者がマイクの前に立った。

「続いて、首席卒業生による答辞です」

父は拍手を始めた。

まだ知らない。

その名前が誰なのか。

「代表、第一学年から四年間、最高成績を維持した――」

一瞬の静寂。

「佐伯美月さん」

会場中の拍手。

私はゆっくり歩き出した。

舞台の光が目に入った。

父の顔が見えた。

笑顔が消えていた。

彼の隣で、彩香が小さく呟いた。

「……え?」

私はマイクの前に立った。

四年間、誰にも届かなかった声を出すために。

「本日は、私たちのためにこの場を用意してくださった皆様に感謝します」

父は動かなかった。

私は続けた。

「そして、私を支えてくれた人たちへ」

少しだけ間を置いた。

「たとえ、誰にも見られていないと思う日があっても」

会場は静まり返った。

「努力した時間は、決して消えません」

私は客席を見る。

父の目が揺れていた。

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でも、まだ彼は知らなかった。

この後、学校長が壇上で発表する特別表彰の内容を。

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