Chapter 4: 母が隠した真実
「その続きを見たら……あなたは私を許せなくなるから」
美智子の言葉が、静かな店内に落ちた。
私は画面から目を離さなかった。
動画の中の母は、まだ何かを伝えようとしていた。
なのに、美智子はそれを止めようとしている。
その事実だけで十分だった。
「美智子さん」
私はゆっくり振り返った。
「どうして母さんの動画の内容を知ってるの?」
彼女の顔が固まった。
「……」
「知らないなら、そんな言い方はしないよね」
店主の男性も、異変を感じたのか黙ってこちらを見ていた。
美智子は小さく息を吐いた。
「咲希、あなたは何も分かっていない」
「だったら教えて」
私はUSBを握った。
「全部」
美智子は目を伏せた。
「あなたの母親は、最後まで私を疑っていた」
「疑われるようなことをしたからでしょ」
その言葉に、美智子の眉が動いた。
「あなた……母親に似たわね」
「どういう意味?」
「真実を知ろうとするところ」
彼女は椅子に座った。
「でも、真実はいつも人を幸せにするわけじゃない」
私は動画を一時停止した。
「母さんは、私に何を隠してたの?」
美智子はしばらく黙っていた。
そして、小さな声で言った。
「あなたの出生について」
心臓が大きく跳ねた。
「……何?」
「あなたのお母さんは、あなたを産む前に大きな決断をした」
私は息を止めた。
「それ以上言わないで」
「聞くべきよ」
「違う」
私は首を振った。
「母さんが言うべきだった」
美智子は目を逸らした。
その瞬間、私は確信した。
彼女は何かを知っている。
でも、まだ全部を話すつもりはない。
「動画を見る」
私が言うと、美智子は立ち上がった。
「咲希」
「邪魔しないで」
「あなたのお母さんは、あなたを守るために嘘をついたの」
「じゃあ、あなたは?」
私は彼女を見る。
「誰を守るために嘘をついたの?」
美智子は答えなかった。
私は再生ボタンを押した。
画面の中の母が再び映る。
少し時間が経った後、母は静かに話し始めた。
「咲希、まず伝えたいことがあります」
母の声。
それだけで胸が苦しくなった。
「あなたは、私が人生で一番愛した存在です」
涙がこぼれた。
「だからこそ、あなたには本当のことを知る権利があります」
母は一度深呼吸した。
「あなたのお父さんは、あなたを血の繋がった娘として育ててくれました」
私は画面を見る。
「でも、あなたを産んだ時……」
母の目に涙が浮かんだ。
「私は一人でした」
画面の中の母が続ける。
「あなたの実の父親は、あなたが生まれる前に亡くなりました」
私は動けなかった。
「その後、私はあなたのお父さんと出会いました」
母は微笑んだ。
「彼は、あなたを自分の子供として愛すると約束してくれた」
胸の奥が痛んだ。
父。
昨日、私を守ってくれなかった父。
でも、私を育ててくれた父。
「なら……」
私は呟いた。
「どうして母さんは秘密にしたの?」
動画の中の母が答えるように言った。
「理由は、美智子さんです」
美智子が小さく震えた。
「彼女は、あなたの存在を利用しようとしました」
画面が少し乱れる。
「あなたの実の父親には、ある財産がありました」
私は息を止める。
「そして、その権利はあなたに残されていました」
店内が静まり返った。
「美智子さんは、それを知ったのです」
私はゆっくり美智子を見る。
彼女は何も言わなかった。
「だから母さんは……」
「そう」
美智子が低く呟いた。
「だから私は疑われた」
私は驚いた。
彼女が否定しない。
「疑われた?」
「違う」
美智子の声が震える。
「私は……」
その時、彼女のスマートフォンが鳴った。
画面を見ると、父からだった。
美智子はすぐに電話を切った。
私はその行動を見逃さなかった。
「お父さんと何を話してるの?」
「何でもない」
「嘘」
美智子は初めて怒った顔を見せた。
「あなたは何も知らないくせに!」
その声には、怒りだけではなく恐怖が混ざっていた。
私は静かに言った。
「母さんは、あなたが怖かったんだね」
美智子の表情が変わる。
「……」
「だから、このワンピースの中に全部隠した」
その瞬間。
美智子は小さく呟いた。
「違う」
「何が?」
「ワンピースだけじゃない」
私は眉をひそめた。
「どういう意味?」
美智子は立ち上がった。
「あなたのお母さんは、もっと大きな証拠を残している」
「どこに?」
彼女はドアへ向かった。
そして振り返る。
「でも、それを見つけたら……あなたはお父さんを憎むことになる」
彼女が去った後。
私は画面に残った母を見る。
動画はまだ終わっていなかった。
最後の数秒。
母の声が小さく聞こえた。
「咲希……もし私がいなくなった後、あなたのお父さんが何かを隠していたら……」
母は涙を拭った。
「彼に聞いて」
「あなたが本当に誰の娘なのかではなく……」
一瞬、映像が止まる。
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そして最後の言葉。
「なぜ彼が、あなたを守るために嘘をついたのかを」