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Chapter 7: 父の書斎に残された鍵

父の書斎に入るのは、母が亡くなってから初めてだった。

この部屋には、父以外ほとんど誰も入らなかった。

幼い頃、私は何度かこの扉の前まで来たことがある。

でも父はいつも笑って言った。

「ここは大人の場所だからな」

あの頃の私は、その言葉を信じていた。

けれど今は違う。

この部屋には、私が知らされなかった真実が眠っている。

「咲希」

父が後ろから呼んだ。

私は振り返らなかった。

「お父さん、止めるなら今度こそ理由を教えて」

父は黙った。

その沈黙が答えだった。

私はドアノブに手をかけた。

鍵はかかっていなかった。

まるで、誰かが開ける日を待っていたようだった。

中に入ると、古い紙の匂いがした。

父の机。

本棚。

壁に飾られた、母と父の若い頃の写真。

その写真を見ると、胸が痛んだ。

二人は本当に幸せそうだった。

「お母さん……」

私は小さく呟いた。

父は何も言わず、部屋の隅に立っていた。

私は机の引き出しを一つずつ開けていった。

契約書。

古い手帳。

会社の書類。

そして、一番下の引き出し。

そこだけ鍵がかかっていた。

「これだ」

私が言うと、父の顔が強張った。

「咲希」

「この鍵、どこ?」

父は答えなかった。

その瞬間、私はポケットから小さな鍵を取り出した。

母のワンピースの中に隠されていたもの。

USBと一緒に入っていた古い鍵。

私は差し込んだ。

カチッ。

小さな音がした。

引き出しの中には、三つの封筒が入っていた。

一つ目。

「咲希へ」

二つ目。

「夫へ」

そして三つ目。

「美智子さんへ」

私は息を止めた。

「母さん……」

父が一歩近づいた。

「俺にも?」

私は一つ目の封筒を父に渡した。

「読んで」

父は震える手で封を開けた。

私は自分の封筒を開いた。

中には、母の字。

「咲希へ」

「あなたがこの箱を開ける頃には、きっとたくさんの人を疑っているでしょう」

涙が滲んだ。

母は分かっていた。

私がこの日を迎えることを。

「でも、一人だけ疑わないでほしい人がいます」

私は読み進める。

「それは、あなたのお父さんです」

私は顔を上げた。

父は手紙を読みながら泣いていた。

「お父さんは、間違いを犯しました」

母の文字。

「でも、それはあなたを愛していなかったからではありません」

胸が締め付けられる。

「彼は、あなたを失うことを恐れていました」

その時。

父が小さな声で言った。

「……俺は、母さんとの約束を守れなかった」

私は父を見る。

「何の約束?」

父は手紙を握った。

「美智子から、お前を守ること」

部屋の空気が変わった。

「でも?」

父は苦しそうに続けた。

「俺は、美智子が何をしているか知りながら、証拠を集めることばかり考えていた」

「その間に、母さんは……」

父は言葉を失った。

私は初めて父の弱さを見た。

完璧な父親ではなかった。

でも、嘘をつき続けた理由は、私を傷つけるためではなかった。

その時。

廊下から足音が聞こえた。

誰かが急いで近づいてくる。

ドアが開いた。

美智子だった。

「その引き出しを開けたのね」

彼女の顔には、もう余裕がなかった。

私は三つ目の封筒を見る。

「これ、あなた宛よ」

美智子の目が揺れる。

「渡しなさい」

「嫌」

「咲希!」

初めて彼女が怒鳴った。

私は封筒を開けた。

中には一枚の紙だけ。

母の字。

「美智子さん」

読み始めた瞬間、美智子の顔から血の気が引いた。

「あなたが私にしたことを、私は許せません」

彼女の指が震える。

「でも、あなたにも一つだけ聞きたいことがあります」

私は次の一文を読んだ。

「なぜ、あなたは自分の娘にまで嘘をついたのですか」

美智子の表情が崩れた。

「……」

私は顔を上げる。

「結衣にも?」

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美智子は何も言わなかった。

その沈黙が、すべてを認めていた。

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