Chapter 11: 繰り返された嘘
「別の女性にも?」
私は資料を見つめた。
そこには、名前が並んでいた。
女性。
住所。
契約記録。
そして、同じパターン。
裕福な家庭。
婚約。
金銭問題。
突然の別れ。
私は息を止めた。
「まさか……」
田中弁護士は頷く。
「健太さんは以前にも、同じような関係を築いていました」
父が資料を見る。
「つまり」
「優花を狙ったのは偶然じゃない」
田中弁護士は答えた。
「可能性が高いです」
その夜。
私は一人で昔の日記を開いた。
健太と出会った日のこと。
初めて手を繋いだ日。
プロポーズされた日。
そこには幸せな言葉ばかり書いてあった。
『健太は私のことを本当に大切にしてくれる』
その文字を見るのが苦しかった。
でも。
同時に思った。
あの日の私は。
嘘を信じていたわけではない。
本気で幸せだった。
だからこそ。
今、終わらせなければならない。
翌日。
私は田中弁護士と一緒に警察へ向かった。
印鑑の不正使用。
財産に関する虚偽申告。
証拠を提出するためだった。
受付で書類を渡している時。
後ろから声が聞こえた。
「優花」
振り返る。
健太だった。
「なぜここまでやるんだ?」
私は驚いた。
「なぜ?」
「俺たちは夫婦だっただろ」
私は静かに答えた。
「夫婦だったから」
「あなたに聞きたい」
「もし私が何も持っていなかったら」
「あなたは私と結婚した?」
健太の顔が固まった。
その一瞬で分かった。
答えは言葉より早かった。
「……優花」
「違う」
私は首を振る。
「もう聞きたくない」
彼は近づこうとした。
「俺は変わる」
私は一歩下がる。
「あなたは何度もそう言った」
「でも、変わったことなんて一度もない」
健太は苦しそうに言った。
「俺には君しかいない」
私は彼を見る。
「違う」
「あなたが失ったのは」
「私じゃない」
「あなたが利用できると思った人間」
健太の目が揺れた。
その時。
一人の女性が近づいてきた。
「健太」
彼が振り返る。
顔色が変わる。
「……奈緒」
私は知らない名前だった。
女性は私を見る。
「あなたが優花さんですね」
私は警戒する。
「あなたは?」
女性は小さく頭を下げた。
「私も」
「健太さんに騙された一人です」
空気が止まった。
健太が焦る。
「奈緒、余計なことを言うな」
女性は彼を見る。
「まだそんなこと言うの?」
「あなたは何も変わってない」
私は聞いた。
「何があったんですか?」
奈緒さんはバッグから封筒を出した。
「これを見てください」
中には写真。
契約書。
そしてメッセージ。
私は写真を見て息を呑んだ。
健太。
悦子。
そして。
私の知らない複数の女性。
全員。
同じ笑顔で写っていた。
奈緒さんが言った。
「私たちは、健太さんに同じ言葉を言われました」
「君だけが特別だって」
胸が痛んだ。
でも。
もう驚かなかった。
「なぜ今、私に?」
奈緒さんは答えた。
「最初は怖かった」
「でも」
彼女は健太を見る。
「あなたのお腹の赤ちゃんの話を聞いて」
「もう黙っていられないと思った」
私は資料を受け取った。
その中に。
一枚のメールがあった。
送信者。
悦子。
宛先。
健太。
内容。
『今回こそ失敗しないで』
『優花の父親から全て奪うまで、絶対に逃げないで』
私は息を止めた。
今回こそ。
その言葉。
つまり。
これは最初から計画だった。
そして。
健太だけではなかった。
May you like
悦子も。
何年も同じことを繰り返していた。