Chapter 8: 偽りのプロポーズ
翌日。
私は一人で指定された場所へ向かった。
古い喫茶店。
駅から少し離れた、人通りの少ない場所。
そこに。
一人の男性が座っていた。
写真で見た顔。
健太の父。
健吾。
彼は私を見ると、立ち上がった。
「優花さん」
私は椅子に座る前に言った。
「先に聞きます」
「なぜ今まで黙っていたんですか」
健吾は苦しそうに目を伏せた。
「怖かったからです」
その答えに怒りが湧いた。
「怖かった?」
「あなたの人生を壊すことより?」
彼は何も言わなかった。
私は向かいに座る。
「全部話してください」
健吾はゆっくり口を開いた。
「健太があなたに近づいたのは、最初は計画でした」
胸が痛む。
でも、覚悟はしていた。
「誰の計画?」
「悦子です」
私は目を細めた。
「お義母さん?」
健吾は頷いた。
「悦子は、健太に言いました」
「優花さんと結婚すれば、全てが解決すると」
私は拳を握る。
「何が解決するんですか」
「借金」
健吾の声が低くなる。
「そして、過去の罪です」
私は眉をひそめた。
「過去の罪?」
健吾はバッグから書類を出した。
「これを見てください」
そこには。
健太の名前。
そして、私が知らない裁判記録。
「これは……」
「健太が大学時代に起こした金融詐欺の記録です」
息が止まった。
「嘘……」
「彼は父親の借金だけではありません」
健吾は続けた。
「自分自身で人を騙していた」
私は書類を読む。
そこには複数の被害者。
金銭。
偽名。
契約。
頭が痛くなる。
「でも」
私は聞いた。
「なぜ私だったの?」
健吾は悲しそうに言った。
「あなたのお父さんが、健太にとって最後の希望だったからです」
私は理解した。
家。
財産。
父の会社。
全部。
「私じゃなくて」
私は呟く。
「私の後ろにあるものを見ていた」
健吾は頷いた。
「はい」
その瞬間。
過去の記憶が蘇った。
初めてのデート。
健太が言った。
「君の家族って、本当に温かいね」
あれは褒め言葉じゃなかった。
観察だった。
「でも」
私は聞いた。
「美咲は?」
健吾の顔が曇った。
「美咲さんは途中から計画を知りました」
「最初は健太を取り戻したかった」
「でも、彼女も騙されていた」
私は黙った。
美咲を許したわけではない。
でも、少しだけ理解できた。
健太は。
人の弱さを利用する人間だった。
その夜。
私は家に戻ると、玄関前に人影があった。
健太だった。
「優花」
私は警戒する。
「何しに来たの?」
彼は疲れた顔をしていた。
「謝りたい」
私は笑った。
「何回目?」
健太は俯いた。
「俺は……」
「本当に君を愛していた」
私は彼を見る。
「愛していた人に」
「自分の借金を隠す?」
「妹と関係を続ける?」
「母親に私を傷つけさせる?」
健太は何も言えなかった。
その時。
彼のスマホが鳴った。
画面が一瞬見えた。
通知。
送信者。
悦子。
『計画通りに進んでいる?』
私は目を疑った。
健太も気づいた。
慌ててスマホを隠す。
でも遅かった。
私は見てしまった。
「計画?」
健太の顔が青ざめる。
「優花、違う」
「何が違うの?」
私は一歩近づいた。
「まだ私に嘘をつくの?」
健太は黙った。
そして。
スマホにもう一件通知が届いた。
今度は内容が表示された。
『次は、お腹の子について話す』
その文字を見た瞬間。
私の血の気が引いた。
「お腹の子……?」
健太は震えた。
そして小さく言った。
「優花」
May you like
「聞いてほしい」
「君の赤ちゃんについても、俺たちは……」