Chapter 14: 最後に残った真実
翌朝。
私は健吾と会った。
もう驚くことはないと思っていた。
でも。
人生にはまだ残酷な秘密があるらしい。
喫茶店に入ると。
健吾は深刻な顔で待っていた。
「優花さん」
私は座る。
「何ですか」
「これ以上、あなたを傷つけたくない」
私は答えた。
「もう十分傷つきました」
健吾は目を伏せる。
「その通りです」
そして。
一枚の写真を出した。
古い写真。
そこには若い頃の悦子。
そして。
もう一人の女性。
「この人は?」
健吾は答えた。
「健太の本当の母親です」
私は驚いた。
「悦子さんじゃない?」
健吾は首を振った。
「悦子は育ての母です」
私は写真を見る。
「では」
「なぜ悦子さんが?」
健吾は静かに話し始めた。
「昔、私は大きな過ちを犯しました」
「悦子ではない女性と関係を持った」
「その女性が健太を産んだ」
「しかし」
彼は苦しそうに続けた。
「その女性は病気で亡くなった」
「私は息子を引き取ろうとした」
「でも、悦子が反対した」
私は聞く。
「なぜ?」
健吾は答えた。
「彼女は、自分の人生を壊したと思ったからです」
「だから健太を自分の息子として育てた」
「でも、心の奥では憎んでいた」
私は黙った。
「そして」
健吾は続けた。
「その憎しみを、健太に植え付けた」
私は理解した。
健太がなぜ。
人を信じられない人間になったのか。
なぜ。
愛より利用を選んだのか。
でも。
それは理由にはならない。
「だから許せと?」
私は聞いた。
健吾は首を振った。
「違います」
「彼の選択は彼自身の責任です」
その言葉に少し救われた。
午後。
私は病院へ向かった。
定期検診の日だった。
先生が笑顔で言う。
「赤ちゃんは順調です」
私は小さく笑った。
「よかった」
帰り道。
私は以前とは違う気持ちだった。
私はもう。
健太の妻ではない。
誰かの娘でも。
誰かの妹でもない。
私はこの子の母親だった。
その夜。
家に戻ると。
玄関前に健太がいた。
「何?」
彼は疲れ切った顔をしていた。
「謝りたい」
私はため息をつく。
「まだ?」
「今度は本当だ」
彼は言った。
「全部失って分かった」
「俺はずっと、自分が可哀想だと思っていた」
私は黙る。
「父親にも」
「母親にも」
「人生にも」
「でも」
彼は涙を浮かべた。
「俺が一番傷つけたのは、優花だった」
その言葉。
初めて本当に聞こえた。
でも。
遅かった。
「健太」
「何?」
「あなたが後悔していることと」
「私が戻ることは別」
彼は俯いた。
「分かってる」
「でも」
彼は一枚の封筒を出した。
「これだけ渡したかった」
私は受け取らない。
「何?」
「父さんから預かった」
私は驚く。
「健吾さんから?」
健太は頷く。
「俺が知らなかったもの」
「父さんが隠していた証拠」
封筒を開く。
中には。
銀行記録。
そして。
一つの名前。
私は息を止めた。
そこにあった名前は。
悦子ではなく。
父でもなかった。
「これは……」
健太が言う。
「母さんが、本当に恐れていた人」
「俺の実の母親の名前だ」
私は書類を見る。
そこには。
私が知らない事実が書かれていた。
健太の出生記録。
そして。
最後の一行。
『母親:高橋優子』
私は顔を上げる。
「高橋……?」
その苗字。
私には覚えがあった。
なぜなら。
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それは。
私の母の旧姓だった。