Chapter 13: 血の繋がりという嘘
「あなたのお父さんです」
悦子の言葉が法廷に落ちた瞬間。
時間が止まったようだった。
私は父を見る。
父は。
何も言わなかった。
ただ、目を閉じていた。
その表情を見た瞬間。
胸の奥に冷たいものが広がった。
「……お父さん?」
私の声は震えていた。
父はゆっくり立ち上がった。
「優花」
「違う」
私は首を振った。
「違うって言って」
父は答えなかった。
その沈黙が。
何より苦しかった。
健太は顔を青ざめさせていた。
「母さん」
彼の声が震える。
「何を言ってるんだ」
悦子は涙を流していた。
「もう隠せない」
「全部、私たちの罪よ」
私は混乱していた。
怒り。
悲しみ。
裏切り。
全てが一度に押し寄せる。
「説明してください」
私は父を見る。
「お父さん」
法廷中が静まり返った。
父はゆっくり息を吐いた。
「……健太は」
「俺の実の息子だ」
その一言で。
世界が崩れた。
「いつから知っていたの?」
私は聞いた。
父は目を伏せる。
「知ったのは最近だ」
「嘘」
私は言った。
「お父さんは前から知っていた」
父は否定しなかった。
「健太が俺の会社に関わった時」
「過去の資料を調べて分かった」
私は唇を噛んだ。
「じゃあ」
「私と健太が結婚した時も?」
父の表情が苦しくなる。
「知らなかった」
「最初は」
私はその言葉に引っかかった。
「最初は?」
父は黙る。
田中弁護士が静かに言った。
「優花さん」
「確認させてください」
「あなたのお父様は、健太さんが出生について隠していた事実を、婚姻後に知ったようです」
私は父を見る。
「なぜ言わなかったの?」
父は答えた。
「怖かった」
「またお前を傷つけると思った」
私は笑った。
でも涙が出た。
「お父さん」
「私、何回傷つけばいいの?」
父の顔が歪んだ。
その時。
健太が突然叫んだ。
「俺は知らなかった!」
全員が彼を見る。
「俺がそんな……」
彼は混乱していた。
「俺の父親が……」
悦子が静かに言う。
「あなたは知らなくてよかった」
「でも」
「私は知っていた」
健太は母を見る。
「なぜ?」
悦子は震える手を握った。
「あなたの本当の父親は、私が捨てたかった過去だった」
「健太」
「あなたは、あの人の息子なの」
法廷は静まり返った。
父が低い声で言う。
「悦子」
「なぜ今まで黙っていた」
悦子は泣いた。
「あなたが怖かったから」
「あなたが私と健太を捨てたこと」
父は苦しそうな顔をした。
私は二人を見る。
つまり。
父と悦子は昔関係を持っていた。
その結果。
健太が生まれた。
でも。
その後。
父は家族を選んだ。
母と私を。
そして悦子は。
健太を育てながら憎しみを抱えていた。
その憎しみが。
今まで続いていた。
「だから」
私は小さく言った。
「私を選んだの?」
健太が私を見る。
「何?」
「あなたは私を」
「妹の代わりにも」
「父親を取り戻す道具にもした」
健太は何も言わない。
私は涙を拭った。
「最低」
その言葉に。
彼の肩が落ちた。
裁判官は休廷を告げた。
廊下に出ると。
父が私を追いかけてきた。
「優花」
私は止まらなかった。
「聞いてくれ」
「もう聞いた」
「違う」
父の声が震える。
「俺はお前を愛している」
私は足を止めた。
「だったら」
振り返る。
「なぜ、私だけ何も知らなかったの?」
父は答えられない。
私は静かに言った。
「私は健太に裏切られた」
「でも」
「お父さんにも隠されていた」
父の目に涙が浮かぶ。
「ごめん」
私は首を振った。
「今は」
「許せない」
その夜。
私は一人で家に戻った。
もう誰も信じられないと思った。
でも。
お腹の中の子が動いた。
私は手を置いた。
「大丈夫」
「あなたには」
「嘘のない世界を作るから」
その時。
スマホに通知が届いた。
差出人。
健吾。
健太の父。
内容を見て。
私は凍りついた。
『優花さん』
『まだ終わっていません』
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『健太の出生の話は、始まりに過ぎません』
『本当の秘密は、悦子が隠している別の事実です』