Chapter 6: 最も近くにいた裏切り者
「美咲だった」
その名前が頭の中で響いた。
私は何も言えなかった。
電話の向こうの女性。
里奈。
その声は、私の妹、美咲と同じだった。
「……嘘」
震える声が漏れる。
「違う」
自分に言い聞かせるように呟いた。
でも、電話の向こうで女性は静かに笑った。
「優花さん」
「気づくのが遅かったですね」
その瞬間。
手からスマホが落ちそうになった。
美咲。
私の妹。
小さい頃から一緒だった。
私が泣いた時、隣にいてくれた。
結婚式の日、私のドレスの裾を直してくれた。
そして今日。
「女の子よ!」
一番最初に喜んでくれた人。
その人が。
健太の相手?
「美咲……?」
私が名前を呼ぶと、電話の向こうで静かな息遣いが聞こえた。
「そうです」
彼女は答えた。
「私です」
頭が真っ白になった。
「どうして……」
言葉が続かない。
「どうしてあなたが?」
美咲は少し笑った。
「本当に分からないんですか?」
私は椅子から立ち上がった。
「説明して」
「お願い」
声が震える。
「私の前で全部話して」
電話の向こうで沈黙。
そして。
「分かりました」
美咲は言った。
「でも、優花さん」
「あなたが知っている健太さんは、本当の彼じゃありません」
私は眉をひそめた。
「どういうこと?」
「健太さんは、最初からあなたを選んだ理由があります」
胸が痛む。
「お金?」
「それもあります」
美咲は淡々と言った。
「でも、それだけじゃない」
私は息を止めた。
「何なの?」
彼女は答えなかった。
「明日、会いましょう」
「そこで全部話します」
電話が切れた。
私はしばらく動けなかった。
その夜。
眠れなかった。
何度も思い出した。
美咲の笑顔。
健太と私の結婚式で泣いていた姿。
「お姉ちゃん、幸せになってね」
そう言った声。
全部、嘘だったのか。
翌日。
私は指定されたカフェへ向かった。
美咲はすでに座っていた。
いつもの服。
いつもの髪型。
でも。
もう私には、妹には見えなかった。
「座って」
美咲が言った。
私は向かいに座る。
「説明して」
単刀直入に言った。
美咲はコーヒーを一口飲んだ。
「健太さんと出会ったのは、あなたより先です」
胸が締め付けられる。
「……いつ?」
「六年前」
私は息を呑んだ。
「私と健太は、結婚の話までしていました」
頭が混乱する。
「でも」
美咲は続けた。
「彼のお母さんが反対した」
「私の家柄では不十分だって」
私は黙った。
「その後、健太さんはあなたに近づいた」
「あなたは父親から大きな資産を受け継ぐ予定だったから」
指先が冷たくなる。
「嘘……」
美咲は首を振った。
「本当です」
「でも、私にも責任があります」
私は彼女を見る。
「なぜ?」
美咲は目を伏せた。
「私は……健太さんを取り戻したかった」
その言葉に怒りが湧いた。
「だから私を利用したの?」
「私の結婚を壊したの?」
美咲の目に涙が浮かぶ。
「違う」
「最初はそう思っていました」
「でも……」
彼女は震える声で言った。
「健太さんが本当に隠していたことを知った時、怖くなった」
私は眉をひそめる。
「何を?」
美咲はバッグから一枚の写真を出した。
それをテーブルに置く。
写真には。
健太。
悦子。
そして、知らない男性。
三人が写っていた。
裏側には日付。
私が健太と初めて出会った一週間前。
「この人は誰?」
美咲は小さく答えた。
「健太さんのお父さんです」
私は写真を見る。
「でも……」
私は言葉を失った。
なぜなら。
健太は以前、こう言っていた。
「父は亡くなっている」
写真の日付を見る。
父親の死亡日の後。
つまり。
健太は父親についても嘘をついていた。
美咲が低い声で言った。
「優花さん」
「あなたが今日まで知らなかった秘密は、まだあります」
私は写真を握る。
「何?」
美咲は私を見る。
「健太さんの父親は死んでいません」
「そして――」
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彼女は続けた。
「あなたのお父さんは、その事実を最初から知っていました」