Chapter 13: 崩れた嘘の城
体育館に響いた黒川理事の言葉。
「君の父親を死なせたのは、君自身の母親だ」
その瞬間、蓮くんの顔から血の気が引いた。
「……違う」
小さな声だった。
でも、黒川理事は笑った。
「まだ信じるのか?」
体育館の中央。
冷たい床の上で、私たちは黒川理事と向き合っていた。
校長はすぐに前へ出た。
「黒川さん。これ以上、根拠のない発言はやめてください」
「根拠?」
黒川理事はポケットからスマートフォンを取り出した。
「ありますよ」
彼は画面を操作した。
そこには古いメッセージ記録が映っていた。
送信者。
蓮くんのお母さん。
受信者。
黒川理事。
蓮くんはそれを見た瞬間、息を止めた。
「母さん……?」
蓮くんのお母さんは画面を見るなり、顔を青くした。
「違う……」
「違う?」
黒川理事は笑った。
「あなたがご主人を止めようとしたことは事実でしょう」
「それは……」
「あなたは彼に計画をやめるよう頼んだ」
蓮くんのお母さんは黙った。
「そして、その直後に事故が起きた」
私は混乱した。
確かに怪しく聞こえる。
でも、何かがおかしい。
黒川理事は、まるで準備していた物語を読み上げているようだった。
「蓮くんのお父さんは、あなたの存在が邪魔になった」
彼は続ける。
「だからあなたは――」
「やめてください」
蓮くんのお母さんが遮った。
その声は震えていた。
「あなたは、何も知らない」
黒川理事の笑顔が消えた。
「知っていますよ」
「いいえ」
彼女は涙を流しながら言った。
「あなたは知っているふりをしているだけ」
その瞬間。
校長が何かに気づいた。
「黒川さん」
「何ですか?」
「あなたは、なぜそこまで詳しいのですか」
体育館が静かになった。
校長は続けた。
「事故の詳細は、警察資料にも一部しか残っていない」
黒川理事の表情がわずかに変わった。
「しかしあなたは、事故直後の状況を知りすぎている」
沈黙。
私は初めて見た。
黒川理事の余裕が崩れる瞬間を。
蓮くんのお母さんが言った。
「あなたは昔からそうだった」
「何?」
「人の弱さを探して、そこにつけ込む」
黒川理事は睨んだ。
「あなたが黙っていれば、誰も傷つかなかった」
「違う」
彼女は首を振った。
「あなたが壊したのよ」
その時、警察官が体育館へ入ってきた。
「黒川さん」
黒川理事は振り向いた。
「あなたには、不正送金、脅迫、証拠隠滅について話を聞く必要があります」
一瞬。
黒川理事の顔に焦りが浮かんだ。
でも、彼はまだ笑っていた。
「証拠は?」
警察官は一枚の紙を出した。
「あります」
それは地下保管室で見つかったノートだった。
「あなた自身が残した記録です」
黒川理事の表情が変わった。
校長が説明した。
「あなたは蓮くんの父親が残した証拠を探すため、坂本先生を利用した」
「……」
「しかし、あなたは一つ計算を間違えた」
校長は私を見る。
「防犯カメラです」
私は驚いた。
「私?」
「そうです」
校長は頷いた。
「あなたが戻した映像が、すべての始まりでした」
蓮くんは私を見た。
その目には、初めて少しだけ希望があった。
黒川理事は連れて行かれた。
でも、蓮くんはその場から動かなかった。
彼は母親を見た。
「本当なの?」
彼女は涙を流した。
「何が?」
「父さんのこと」
長い沈黙。
そして彼女は首を振った。
「私はあなたのお父さんを殺していない」
「じゃあ、なぜ疑わせるような映像が?」
彼女は答えた。
「あなたのお父さんが、私を守るために残した最後の罠だったから」
「罠?」
彼女は頷いた。
「敵が私を疑えば、あなたに近づくと思った」
蓮くんは理解できない顔をした。
「そんな危険なことを……」
「そうね」
彼女は涙を拭いた。
「でも、あなたのお父さんは最後まであなたを守ろうとしていた」
その夜。
事件は大きく報道された。
学校の隠蔽。
黒川理事の不正。
坂本先生への脅迫。
すべてが明らかになった。
しかし、蓮くんにはまだ一つだけ残っていた。
父親が最後に残した言葉。
『私の最も近くにいた人物』
それが誰だったのか。
翌日。
校長から連絡が来た。
「蓮くんのお父さんの録音データが復元できました」
私たちはすぐに学校へ向かった。
そして再生された音声の最後。
壊れていた部分が戻った。
父親の声が響く。
『彼の名前は――』
全員が息を止めた。
May you like
『私の親友、樋口だ』
蓮くんと私は同時に校長を見た。