Amazed

Chapter 7: 死んだ父からの手紙

父親の名前を見た瞬間、蓮くんの世界が止まった。

亡くなったはずの人。

もう二度と話すことができない人。

その人からの手紙が、今、私の手の中にあった。

「……そんなはずない」

蓮くんは小さく呟いた。

校長室の机の上。

全員がその紙を見つめていた。

蓮くんのお母さんは、震える手で手紙を受け取った。

一行目を読んだ瞬間、彼女の顔から血の気が引いた。

「これは……」

「お母さん、知ってるの?」

蓮くんの声は震えていた。

彼のお母さんはすぐに答えなかった。

しばらく目を閉じてから、ゆっくり言った。

「あなたのお父さんが亡くなる前に書いたものだと思う」

「でも……」

蓮くんは混乱していた。

「お父さんは事故で亡くなったんだよね?」

部屋の空気が重くなる。

私は校長の表情を見た。

彼も何かを知っているようだった。

「樋口先生」

蓮くんのお母さんが小さな声で言った。

「あなたも知っていたんですか?」

校長は視線を落とした。

「一部だけです」

「どうして言わなかったんですか」

「言える状況ではありませんでした」

蓮くんは二人を交互に見た。

「僕だけ何も知らなかったってこと?」

その言葉に、誰も返事ができなかった。

蓮くんは椅子を押して立ち上がった。

「もういいです」

「蓮」

「僕はいつもそうだった」

彼の目に涙が浮かんだ。

「周りの大人は何か知ってる。でも僕には何も教えてくれない」

私は胸が痛くなった。

彼は学校でも家でも、自分だけ取り残されていると思っていたのだ。

その時、校長が静かに言った。

「蓮くん。君のお父さんは、君を守ろうとしていた」

蓮くんは首を振った。

「だったら、どうして僕の前からいなくなったんですか」

その質問には、誰も答えられなかった。

校長は手紙を読み始めた。

『蓮へ。

もしこの手紙を読む日が来たなら、私はもう君の隣にはいないだろう。

でも、これだけは信じてほしい。

君が生まれたことを、私は一度も後悔したことはない』

蓮くんの目から涙が落ちた。

『君を守るために、私は家族の中にある嘘と向き合うことにした。

あの人は、君の才能を怖がっている。

君が自由に成長すれば、自分の計画が壊れるからだ』

私は息を止めた。

才能。

計画。

一体何を意味しているのか。

校長は続けた。

『学校にも協力者がいる。

もし蓮が特待生として選ばれたなら、必ず邪魔をする人間が現れる。

その時は、蓮を責めないでほしい。

悪いのは君ではない』

蓮くんは拳を握った。

「僕のせいじゃなかった……」

その言葉は、子どものように弱かった。

「ずっと……僕が足りないからだと思ってた」

私は何も言えなかった。

ただ、隣に立った。

その時。

校長室のドアが突然開いた。

警備員が入ってきた。

「校長先生、大変です」

「何があった?」

警備員は一枚の写真を差し出した。

「坂本先生を探していたところ、学校の倉庫でこれを見つけました」

写真を見る。

そこには、若い頃の坂本先生。

そして、蓮くんの父親。

二人は一緒に写っていた。

蓮くんが驚く。

「先生と……父さん?」

しかし、さらに裏側を見ると、別の文字があった。

『計画開始日』

その下に日付。

それは、蓮くんがこの学校に入学する三日前だった。

そして最後に書かれていた名前。

私はその名前を見た瞬間、凍りついた。

May you like

そこには――。

樋口校長の名前があった。

Related Stories

Other posts