Chapter 5: 隠されていた約束
写真の裏に書かれていた名前。
それは、私たちが毎日見ている人物のものだった。
「……校長先生?」
私は思わず呟いた。
蓮くんが慌てて写真を取り返した。
「見たの?」
「ごめん。でも……これ、本当に?」
蓮くんは答えなかった。
彼の手が震えていた。
「僕も知らなかった」
「知らなかった?」
蓮くんは写真を握りしめた。
「今日、坂本先生の机から出てきた封筒の中に入ってた」
私は混乱した。
校長先生は蓮くんを助けようとしていた。
なのに、なぜ彼の名前がそこにあるのか。
「蓮くん、一体どういうこと?」
彼はしばらく黙っていた。
そして、小さな声で言った。
「僕……この学校に来る前に、一度だけ会った人がいる」
教室の時計の音だけが響いた。
「誰?」
「僕のお母さんの昔の知り合い」
蓮くんは窓の外を見た。
「その人は、僕をこの学校に入れるために手伝ってくれたって言ってた」
「じゃあ、悪い人じゃないんじゃ……」
蓮くんは首を振った。
「でも、僕が特待生になった後から、変なことが増えた」
私は黙って聞いた。
「提出した宿題がなくなったり、僕だけ発表の順番を変えられたり」
「それって……」
「先生たちは偶然だって言った」
蓮くんは苦笑した。
「僕もそう思おうとした」
その表情を見て、胸が痛くなった。
彼はずっと我慢していたのだ。
誰にも言わず。
何も疑わず。
ただ、自分が悪いのだと思って。
翌日。
樋口校長は緊急の面談を開いた。
場所は校長室だった。
私と蓮くん、そして蓮くんのお母さんが呼ばれていた。
校長室には重い空気が流れていた。
蓮くんのお母さんは、写真を見るなり顔色を変えた。
「これは……」
校長が聞いた。
「ご存じですか?」
彼女はしばらく黙った。
そして、小さく頷いた。
「はい」
蓮くんが驚いた。
「お母さん?」
彼女は涙をこらえていた。
「ごめんね、蓮」
「何で謝るの?」
「あなたに言えなかったことがあるの」
校長は静かに待った。
蓮くんのお母さんは写真を見つめた。
「この写真に写っている女性は、あなたのお父さんの妹です」
蓮くんの目が大きく開いた。
「僕に……叔母さんがいるの?」
「いる。でも、あなたのお父さんとは昔から争いがあった」
私は息を飲んだ。
家族の問題。
それが学校にまで繋がっている。
蓮くんのお母さんは続けた。
「あなたのお父さんが亡くなった後、特許と財産のことで争いになったの」
「でも、それと学校が何の関係が……」
蓮くんの声が震える。
その時。
校長が机の上の書類を開いた。
「関係があります」
そこには、特待生推薦者の名前が書かれていた。
そして、その下にもう一つの名前。
「坂本先生は、あなたを追い出すために動いていたのではありません」
校長が言った。
「誰かに命令されていた可能性があります」
蓮くんが青ざめる。
「誰に?」
校長は答えようとした。
しかし、その瞬間。
校長室の電話が鳴った。
全員がびくっとする。
校長が受話器を取った。
数秒後。
顔色が変わった。
「……本当ですか?」
私は嫌な予感がした。
校長はゆっくり受話器を置いた。
「今、坂本先生の自宅から新しい証拠が見つかったそうです」
「何が?」
蓮くんのお母さんが聞いた。
校長は震える声で答えた。
「坂本先生に、毎月振り込まれていたお金の記録です」
沈黙。
「送り主の名前は……」
校長は紙を見る。
May you like
そして、ゆっくり言った。
「蓮くんのお父さんの妹でした」