Chapter 10: 父が残した最後の警告
「母さん……?」
蓮くんの声は、聞いたことがないほど弱かった。
校長室の空気が凍りついていた。
誰も言葉を出せなかった。
画面の中には、確かに蓮くんの父親がいた。
優しい表情。
落ち着いた声。
でも、その口から出た名前は、蓮くんにとって最も信じたい人だった。
「信じてはいけない人間が一人いる」
映像の中の父親はそう言った。
「それは――」
そこで画面が一瞬乱れた。
そして、名前が告げられた。
「蓮の母親だ」
その瞬間、蓮くんの顔から表情が消えた。
「違う……」
小さな声だった。
「そんなわけない」
彼は画面を見つめたまま、何度も首を振った。
「母さんが僕を裏切るはずない」
私は何も言えなかった。
だって、私も信じられなかった。
蓮くんのお母さんは、ずっと彼を守ろうとしていたように見えた。
坂本先生のことを話した時も。
父親の秘密を話した時も。
彼女は苦しそうだった。
でも、映像は残酷だった。
証拠として残っていた。
「止めてください」
突然、蓮くんのお母さんが言った。
声が震えていた。
「もう十分です」
校長は彼女を見た。
「説明してください」
長い沈黙。
そして、彼女は椅子に座った。
「……私は、あなたのお父さんを裏切りました」
蓮くんの目が揺れた。
「お母さん……?」
「でも、あなたを裏切ったわけじゃない」
彼女は涙をこらえていた。
「そこだけは信じて」
蓮くんは黙っていた。
彼女はゆっくり話し始めた。
「あなたのお父さんは、亡くなる前に叔母さんの不正を知った」
「うん」
「でも、証拠を公にすれば、家族全員が壊れると思った」
彼女は手を握った。
「だから、ある計画を立てた」
「計画?」
「あなたを守るための計画」
校長が尋ねる。
「では、なぜご主人はあなたを疑うような映像を?」
彼女は目を伏せた。
「それは……私が彼の計画を止めようとしたからです」
部屋が静まる。
蓮くんが聞いた。
「どうして?」
彼女は息を吸った。
「あなたのお父さんは、叔母さんを追い詰めるために、全ての証拠を集めていました」
「それは正しいことじゃないの?」
「正しい。でも危険だった」
彼女は蓮くんを見る。
「叔母さんは、簡単に諦める人じゃない」
「だから?」
「だから私は、あなたを連れて逃げようとした」
蓮くんの表情が変わった。
「逃げた?」
「あなたのお父さんには黙って、別の学校へ行かせようとした」
「……」
「でも、その前に事故が起きた」
誰も動かなかった。
蓮くんのお父さんの死。
それは本当に事故だったのか。
その疑問が全員の中に浮かんだ。
校長が低い声で聞いた。
「あなたは、ご主人の事故について何か知っているのですか?」
蓮くんのお母さんは震えた。
「知っています」
「何を?」
「事故の直前、彼は私に電話をしました」
「内容は?」
彼女は涙を流した。
「『もし僕に何かあったら、蓮を守ってくれ』と言いました」
蓮くんは俯いた。
「じゃあ……」
彼の声が震える。
「父さんは母さんを疑ってたんじゃなくて……」
彼女は頷いた。
「私が彼の計画を知らないふりをして、あなたを守る役目をするようにしたの」
校長が画面をもう一度確認した。
「しかし、この映像は誰かが編集しています」
全員が顔を上げた。
「編集?」
「君のお父さんの元の映像には、おそらく続きがあります」
校長はUSBを調べた。
「最後の部分が切り取られている」
蓮くんのお母さんの顔が変わった。
「まさか……」
その時。
校長室の電話が鳴った。
警察からだった。
校長が数秒話した後、青ざめる。
「どうしました?」
私が聞く。
校長はゆっくり答えた。
「坂本先生が見つかりました」
「無事ですか?」
校長は首を横に振った。
「意識はあります」
「では……」
「でも、彼女が言った最初の言葉が問題です」
May you like
校長は震える声で続けた。
「『本当の犯人は、学校の中にいる』と言ったそうです」