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Chapter 11: 母親たちの秘密

翌朝。

私は美香さんの住所を警察から聞いた。

本来なら、勝手に会いに行くべきではなかった。

でも、妻の最後の言葉を知るためには、直接聞く必要があった。

里奈も一緒に来ると言った。

「私も行く」

「危険かもしれない」

「もう逃げない」

その言葉に、私は何も言わなかった。

以前の里奈なら、翔太を守るために嘘をついていた。

でも今は違う。

彼女もまた、真実を探していた。

美香さんの家は、古いアパートの一室だった。

チャイムを押す。

しばらくして。

ゆっくりドアが開いた。

そこにいた女性を見て、私は驚いた。

疲れ切った顔。

怯えた目。

写真とは全く違う姿だった。

「〇〇さん……」

彼女は私の名前を知っていた。

「私を知っているんですか」

美香さんは俯いた。

「ずっと……謝りたかった」

その言葉に、私は警戒した。

「妻に何をしたんですか」

美香さんの目から涙が落ちた。

「私は……止められなかった」

「何を?」

彼女は部屋の中へ入り、古い箱を持ってきた。

「これを見てください」

中には書類。

写真。

そして、録音データ。

「翔太は昔から問題を起こしていました」

美香さんは言った。

「お金に困ると、人の弱みに付け込んだ」

私は黙って聞いた。

「田村さんと出会ってから、彼は変わりました」

「田村と?」

「はい」

美香さんは震えた。

「田村さんは、翔太に言ったんです」

『金持ちの老人には、弱点がある』

その言葉を聞いた瞬間、怒りが込み上げた。

「私のことか」

美香さんは泣いた。

「最初はあなたではありませんでした」

「え?」

「でも、翔太が里奈さんと付き合い始めた時……」

彼女は言葉を止めた。

「息子は、あなたの家を狙うようになりました」

里奈が顔を伏せた。

「私のせい……」

私は首を振った。

「違う」

美香さんが続ける。

「奥様は気づいていました」

「妻が?」

「はい」

「だから会っていたんですか」

美香さんは頷いた。

「私は奥様に助けを求めました」

「なぜ?」

「翔太を止めたかった」

部屋に沈黙が落ちた。

「でも、私は弱かった」

美香さんは手を握りしめた。

「息子を警察に出す勇気がなかった」

私は聞いた。

「そして妻は?」

美香さんは目を閉じた。

「奥様は、証拠を集めていました」

「何の?」

「田村さんと翔太の犯罪の証拠です」

私は息を呑んだ。

「でも……」

美香さんの声が震える。

「彼らに気づかれました」

里奈が小さく聞いた。

「お母さんは……殺されたの?」

美香さんは答えなかった。

その沈黙が答えだった。

私は立ち上がった。

「証拠はどこにある」

美香さんは一枚の鍵を出した。

「奥様が私に預けたものです」

「なぜ今まで渡さなかった」

美香さんは涙を流した。

「怖かった」

「……」

「翔太は私の息子です。でも、もう息子を守るために嘘をつくことはできません」

鍵には番号が書かれていた。

銀行の貸金庫番号。

妻が最後に残したもの。

その日の午後。

私たちは貸金庫へ向かった。

中には一つの封筒。

表には妻の字。

『あなたと里奈へ』

私は震える手で開けた。

中には写真。

契約書。

そして一枚の手紙。

『二人へ』

『もしこれを読む日が来たなら、私は間に合わなかったのでしょう』

里奈が泣き出した。

私は続きを読んだ。

『でも、お願いがあります』

『里奈を責めないでください』

『彼女は悪い人ではありません』

その下。

最後の一文。

『本当に警戒すべき人物は、田村でも翔太でもありません』

私は息を止めた。

『彼らを裏で動かしている人物がいます』

そして、その名前が書かれていた。

私はその名前を見て、声を失った。

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それは――

私が今まで一度も疑ったことのない人物だった。

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