Chapter 2: 娘が隠した真実
警察官の言葉が、玄関に重く響いた。
「〇〇さん、その口座について確認したいことがあります」
私は横を見る。
里奈は完全に固まっていた。
さっきまで強気だった彼女が、今は何かに怯えている。
「里奈」
名前を呼ぶと、彼女の肩が跳ねた。
「何を隠している?」
「違う……違うの、お父さん」
「何が違う?」
翔太が一歩前に出た。
「お義父さん、誤解です」
その声を聞いた瞬間、私は怒りを抑えられなくなった。
「お前が口を挟む話じゃない」
翔太は困ったような顔を作った。
「俺だってこんなことになるとは思わなかったんです」
「何が?」
「保釈されれば全部解決すると思っていました」
私は警察官を見る。
「説明してもらえますか」
警察官は静かに頷いた。
「昨日、翔太さんの保釈金として振り込まれた550万円について調査しています」
「なぜ?」
「資金の出所に問題がある可能性があるためです」
里奈が慌てて口を挟んだ。
「待ってください!これは私が送ったんです!」
警察官は里奈を見る。
「あなたが口座所有者の方から許可を得て送金しましたか?」
沈黙。
私はその沈黙を聞き逃さなかった。
「答えろ、里奈」
彼女は目を逸らした。
「……必要なことだったの」
「質問に答えろ」
「お父さんは使う予定だっただけでしょ!」
その瞬間、私は言葉を失った。
使う予定。
まるで私の命が、ただの予定表の一行のようだった。
「手術の日が三日後だと知っていたよな」
「知ってた」
「それでも使ったのか」
里奈は涙を浮かべた。
「翔太には今しか助けるチャンスがなかった」
私は小さく笑った。
笑うしかなかった。
「私は?」
「……」
「私には三日後しかなかったんだぞ」
警察官は静かにメモを取っていた。
翔太が焦ったように言う。
「里奈、もう話した方がいい」
その言葉に、私は違和感を覚えた。
「話す?」
翔太は黙った。
「まだ何かあるのか?」
里奈は震える手でスマートフォンを握った。
「お父さん……」
「何だ」
「翔太は……」
彼女が言葉を詰まらせる。
その瞬間、翔太が低い声で遮った。
「里奈」
たった一言。
しかし、その声には命令のような響きがあった。
私は気づいた。
里奈は翔太を守っているのではない。
翔太に怯えている。
「警察の方」
私は言った。
「全部調べてください」
里奈が顔を上げた。
「お父さん!」
「私は自分の手術費用を取り戻したいだけだ」
「家族なのに……」
その言葉を聞いて、胸が痛んだ。
家族。
その言葉を使う資格が、今の彼女にあるのか分からなかった。
警察官は私に尋ねた。
「口座管理について、娘さんに正式な権限を与えていましたか?」
「いいえ」
「暗証番号などを教えていましたか?」
私は答えに詰まった。
数年前。
里奈が泣きながら言った。
「お父さんに何かあったら困るから」
私は教えた。
家族だから。
警察官は小さく頷いた。
「確認します」
その後、警察官たちは翔太と里奈から話を聞くため、家の中へ入った。
私はリビングの椅子に座った。
妻の写真が目に入る。
「母さん……」
思わず呟いた。
もし妻が生きていたら、どうしていただろう。
きっと里奈を責めながらも、最後には抱きしめただろう。
でも私はできなかった。
命を軽く扱われた痛みは、簡単には消えなかった。
一時間後。
警察官が一枚の書類を見せた。
「〇〇さん」
「はい」
「確認できました」
「何がですか?」
警察官の表情は険しかった。
「この550万円は、単なる保釈金ではありません」
私は眉をひそめた。
「どういう意味ですか?」
警察官はゆっくり続けた。
「翔太さんは、別件でも捜査対象になっています」
心臓が強く脈打った。
「別件?」
警察官は書類を見る。
「あなたの娘さんの口座利用についても、確認が必要です」
私は里奈を見る。
彼女は泣きながら首を振った。
「違う……私は知らなかった」
だが、その時。
警察官のスマートフォンが鳴った。
彼は画面を確認し、表情を変えた。
「これは……」
「何かあったんですか?」
警察官は私を見る。
そして信じられない名前を口にした。
「〇〇さん。この送金を指示した人物は、翔太さんではありません」
「では誰ですか?」
警察官は画面を私に向けた。
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そこに表示されていた名前を見た瞬間、私は凍りついた。
それは、私が一番信じていた人間の名前だった。