Amazed

Chapter 12: 最後の黒幕

紙に書かれた名前。

私は何度も確認した。

間違いであってほしかった。

しかし、そこにははっきり書かれていた。

「……」

声が出ない。

里奈が覗き込む。

「誰?」

私は答えられなかった。

その名前。

私の弟。

健一。

家族の中で唯一、私を支えてくれていると思っていた人間だった。

「嘘……」

里奈も絶句した。

私は記憶を辿った。

健一はいつも優しかった。

妻が亡くなった時も駆けつけた。

病気になった時も心配してくれた。

だが。

考えてみれば。

彼は私の財産状況を知っていた。

土地。

預金。

保険。

全部。

「お父さん……」

里奈が震える。

「どうするの?」

私は手紙の続きを読んだ。

『健一さんは、私に何度も財産について聞きました』

『最初は心配しているだけだと思いました』

『でも、彼は田村さんと繋がっていました』

私は目を閉じた。

家族だと思っていた人間。

全員が裏で繋がっていた。

しかし最後の部分に、妻はこう書いていた。

『でも、一人だけ信じられる人がいます』

『それは里奈です』

私は手紙から顔を上げた。

里奈は泣いていた。

「お母さん……」

妻は最後まで娘を信じていた。

その日の夜。

健一から電話が来た。

「兄さん」

いつもの声。

私は冷静に答えた。

「何だ」

「最近、大変みたいだな」

「誰から聞いた」

「心配してるんだよ」

私は笑った。

「心配?」

「もちろん」

「なら聞く」

私は言った。

「なぜ田村と会っている」

電話の向こうが静かになった。

「……」

「答えろ」

しばらくして。

健一はため息をついた。

「兄さん、知ったのか」

その声には、もう優しさはなかった。

「なぜだ」

「なぜって?」

健一は笑った。

「兄さんは昔から何でも持っていた」

「……」

「親の期待も、仕事も、妻も、家も」

私は言葉を失った。

「俺はずっと隣で見ていた」

「だから金が欲しかったのか」

「違う」

健一の声が低くなる。

「俺は正当に受け取るはずだった」

「何を?」

「父親の遺産だ」

私は眉をひそめた。

「父はもう亡くなった」

「だからだ」

健一は言った。

「兄さんが全部持っている」

私は怒りを抑えた。

「それで私を殺すつもりだったのか」

沈黙。

その沈黙だけで十分だった。

「健一」

私は言った。

「お前は間違っている」

「兄さんには分からない」

「何が」

「奪われる側の気持ちは」

電話が切れた。

その直後。

警察から連絡が入った。

「〇〇さん」

「はい」

「緊急です」

「何がありました」

「健一さんが逃走しました」

私は立ち上がった。

「なぜ?」

警察官の声が緊張していた。

「田村さんと翔太さんに関する証拠を持っている可能性があります」

私は窓の外を見る。

暗闇。

また誰かが消えようとしている。

しかし今度は違った。

私はもう一人ではない。

隣には里奈がいる。

彼女は小さく頷いた。

「お父さん」

「何だ」

「今度は私が守る」

その言葉を聞いた瞬間。

胸の奥にあった固い何かが、少しだけ溶けた。

だが、その直後。

警察から届いた写真。

逃走した健一が向かった場所。

そこに写っていた建物を見て、私は凍りついた。

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それは――

私たちの家だった。

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