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Chapter 7: 母が残した警告

田村さんの声が、夜の静寂の中で響いていた。

「娘さんが父親側についたのが予想外でした」

その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが崩れた。

二十年以上、家族のように信頼していた人間。

妻が亡くなる前も、私が病気になった時も、いつも近くにいた人。

その人が、私たちを裏切っていた。

「お父さん……」

里奈の声が震えた。

私は人差し指を口元に当てた。

静かに。

今はまだ動いてはいけない。

田村さんはまだ外にいる。

そして、まだ私たちが気づいたことを知らない。

私はスマートフォンを取り出し、警察官に連絡を入れた。

短いメッセージだけ送る。

『田村が来た。録音できる状態にする』

その後、私は窓から離れた。

里奈は涙を流しながら、小さな声で言った。

「私のせいだ」

「違う」

「でも、翔太を家に入れたのも、お金を渡したのも私」

私は黙った。

彼女の言葉は間違っていない。

だが、今は責める時ではなかった。

「里奈」

「……」

「お前にはやることがある」

彼女は顔を上げた。

「何?」

「本当のことを話せ」

「誰に?」

「自分自身にだ」

里奈は涙を拭いた。

「私はずっと、翔太を助ければ幸せになれると思ってた」

「……」

「でも違った」

彼女は古い手紙を見つめた。

「お母さんは、私のこと分かってたんだね」

私は妻の筆跡を見た。

『あなたへ』

その文字だけで胸が締め付けられる。

妻は亡くなる前、何かを感じ取っていた。

私は手紙の続きを読んだ。

『里奈は優しい子です。でも、優しい人ほど、悪意のある人間に利用されます』

涙が落ちそうになった。

妻は娘を責めていなかった。

ただ、守ろうとしていた。

『もし里奈が間違った道へ進んでいたら、責める前に手を差し伸べてください』

私は目を閉じた。

妻らしい言葉だった。

しかし、その下に続く文章を読んだ瞬間、空気が変わった。

『ただし、田村さんだけは信用してはいけません』

私は息を止めた。

里奈も驚いた顔をした。

「最初から……知ってたの?」

私は続きを読んだ。

『彼は私に何度も財産整理を急ぐよう勧めてきました』

『あなたが元気なうちに名義を変更した方がいいと言っていました』

『でも、私は違和感を覚えました』

妻は田村さんを疑っていた。

そして最後。

『もし私がいなくなった後、誰かがあなたの財産について急かすなら、それはあなたを守ろうとしている人ではありません』

私は手紙を握りしめた。

その時。

玄関のチャイムが鳴った。

田村さんだった。

「〇〇さん」

いつもの穏やかな声。

「少しお話できませんか」

私は里奈を見る。

彼女は頷いた。

私たちは録音を開始した。

そして私は玄関を開けた。

「田村さん」

彼はいつもの笑顔を浮かべた。

「突然すみません」

「何の用ですか」

田村さんは私の顔を見た。

「体調はいかがですか」

「あなたのおかげで、手術費用がなくなりましたよ」

一瞬。

彼の表情が変わった。

ほんの一瞬だった。

しかし私は見逃さなかった。

「何を言っているんですか」

「あなたは知っていますよね」

田村さんは黙った。

「翔太と組んでいること」

「証拠がありますか?」

冷静な声。

以前なら、その余裕に安心していた。

今は違う。

「妻の手紙があります」

その瞬間。

田村さんの目が揺れた。

「……」

「妻はあなたを疑っていた」

田村さんは小さく笑った。

「亡くなった人の言葉ですか」

その言葉を聞いて、胸の奥が怒りで熱くなった。

「妻を侮辱するな」

田村さんはため息をついた。

「〇〇さん、あなたは何も分かっていない」

「何を?」

彼は一歩近づいた。

「あなたの妻は、あなたに全てを話さなかった」

私は黙った。

「あなたが思っている家族の形は、最初から崩れていたんですよ」

「どういう意味だ」

田村さんは笑った。

「里奈さんには、あなたが知らない秘密があります」

背後で、里奈が息を呑む音がした。

私は振り返らなかった。

「娘の何を知っている」

田村さんは答えなかった。

ただ一言。

「明日、銀行へ行ってください」

「なぜ?」

「そこで、あなたの家族が隠してきた最後の記録を見ることになります」

田村さんは背を向けた。

「その時、誰を信じるべきだったか分かるでしょう」

彼が去った後。

私はすぐに里奈を見た。

「秘密って何だ」

里奈は震えていた。

「私……分からない」

しかし、その顔は何かを思い出しているようだった。

「里奈」

彼女は唇を噛んだ。

「お父さん」

「何だ」

「私、お母さんが亡くなる前の日……呼ばれていた」

私は驚いた。

「何を話した?」

里奈の目から涙が落ちた。

「お母さんは私に言ったの」

「何を?」

彼女は震える声で答えた。

「『もし翔太と結婚するなら、お父さんを一人にしないで』って」

私は胸が痛んだ。

しかし里奈は続けた。

「その後、お母さんはもう一つ言った」

「……」

「『でも、あなたにはまだ言えない秘密がある』って」

私は凍りついた。

妻が隠していた秘密。

それは一体何なのか。

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そして翌日。

銀行で待っていたものは、私の人生をさらに壊すものだった。

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