Chapter 9: 血より深い絆
DNA検査結果。
その紙を何度見ても、文字が変わることはなかった。
「親子関係は否定されません」
私は息を吐いた。
里奈は私の実の娘だった。
田村の言葉は嘘だった。
しかし、安心より先に怒りが込み上げた。
なぜそんな嘘をついたのか。
なぜ家族を壊そうとしたのか。
里奈は隣で泣いていた。
「ごめんなさい」
私は黙っていた。
「私……怖かった」
「何が?」
「田村さんが言ってた」
彼女は震える声で話した。
「お父さんが本当の父親じゃないって言われたら、私は何もなくなるって」
私は胸が痛んだ。
翔太も田村も、里奈の弱い部分を利用していた。
「だから信じたのか」
「……うん」
「私より?」
里奈は首を振った。
「違う」
涙が落ちる。
「私はお父さんを失うのが怖かった」
その言葉を聞いて、少しだけ心が揺れた。
でも傷は消えない。
「里奈」
「はい」
「これから償うことはできる」
彼女は顔を上げた。
「でも、忘れることはできない」
「分かってる」
その夜。
警察から連絡があった。
「田村さんと翔太さんについて、新しい証拠が見つかりました」
私は電話を握る。
「何ですか」
「二人は以前から、高齢者を狙った財産詐欺を計画していました」
「私だけじゃなかった?」
「はい」
警察官は続けた。
「ただ、あなたの場合は少し特殊です」
「なぜ」
「奥様が残した資料のおかげで、彼らの計画が早く発覚しました」
私は妻の手紙を見る。
亡くなっても、妻は家族を守っていた。
翌日。
警察と協力し、田村との面会を準備した。
彼はまだ、自分が勝っていると思っている。
私は録音機を用意した。
そして電話をかけた。
「田村さん」
「〇〇さん」
彼は落ち着いた声だった。
「銀行の件、分かりましたか?」
「はい」
「では、理解しましたね」
私は静かに言った。
「何を?」
「あなたの家族が隠していたこと」
私は笑った。
「あなたの嘘のことですね」
沈黙。
「……何を言っているんですか」
「DNA検査をしました」
田村の呼吸が止まった。
「里奈は私の娘です」
長い沈黙。
そして。
「あなたは……」
初めて、田村の声に焦りが混じった。
「気づいたんですね」
「全部聞かせてもらう」
私は言った。
「なぜこんなことをした」
田村はしばらく黙った。
そして低い声で言った。
「あなたには分からないでしょうね」
「何が」
「あなたが持っているものの価値が」
私は拳を握った。
「金か」
「違う」
田村は笑った。
「あなたが持っているのは、金だけじゃない」
「……」
「妻の残したもの」
私は息を止めた。
田村は続けた。
「あなたの奥さんは、私にあるものを預けていました」
「何を?」
「彼女が亡くなる直前に知った秘密です」
私は黙った。
「その秘密があれば、あなたの財産だけじゃない」
田村の声が低くなる。
「あなたの人生そのものを変えられる」
電話の向こうで、田村は最後に言った。
「あなたの妻は、最後の日に誰かと会っていました」
私は凍りついた。
「誰と?」
田村は答えた。
「翔太の母親です」
電話が切れた。
私は動けなかった。
翔太の母親。
妻が亡くなる前日に会った人物。
一体何を話していたのか。
そして、なぜ今まで誰もその事実を知らなかったのか。
その時。
里奈のスマートフォンに通知が届いた。
送信者。
翔太。
メッセージには一枚の写真が添付されていた。
写真を開いた瞬間。
私は息を失った。
May you like
そこには――
亡くなった妻と、翔太の母親が一緒に写っていた。