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Chapter 13: 父が守るべきもの

警察から送られてきた写真。

そこに写っていた場所を見た瞬間、私は息を止めた。

私たちの家。

妻との思い出が詰まった場所。

里奈が幼い頃、初めて歩いた場所。

そして今、私の命を奪おうとした人間が向かっている場所。

「急ぎましょう」

警察官の声が電話越しに響く。

私は上着を掴んだ。

「俺も行きます」

「危険です」

「分かっています」

私は静かに答えた。

「でも、あそこには私の人生があります」

里奈も立ち上がった。

「私も行く」

私は彼女を見る。

以前なら、危険だから来るなと言ったかもしれない。

でも今は違った。

彼女も、この問題の当事者だった。

そして何より。

私はもう娘を遠ざけたくなかった。

「一緒に行こう」

その言葉を聞いた瞬間、里奈の目から涙が落ちた。

「……ありがとう」

車の中。

誰も話さなかった。

しかし、沈黙は以前とは違った。

傷つけ合う沈黙ではなく、同じ方向を見るための沈黙だった。

家に着くと、玄関の鍵が開いていた。

警察官が先に入る。

「気をつけてください」

私は後ろから続いた。

リビング。

誰もいない。

しかし、テーブルの上に一枚の紙が置かれていた。

私の名前。

そこには健一の筆跡。

『兄さんへ』

私は紙を握った。

『お前はいつも正しい人間だった』

『家族を守る男だった』

『だからこそ、許せなかった』

里奈が横から読む。

『俺はいつも兄さんの影だった』

私は目を閉じた。

健一。

お前はそんなことを思っていたのか。

『でも、本当は違った』

『俺は兄さんになりたかったんじゃない』

『兄さんが持っているものを全部壊したかった』

その瞬間。

背後から声がした。

「見つけたか」

振り返る。

健一が立っていた。

手には古いファイル。

警察官がすぐに近づく。

「健一さん、話を聞かせてもらいます」

しかし健一は動かなかった。

私だけを見ていた。

「兄さん」

「なぜだ」

私の声は震えていた。

「なぜこんなことをした」

健一は笑った。

「なぜって?」

「俺たちは兄弟だろう」

その言葉に、彼の表情が歪んだ。

「兄弟?」

「そうだ」

「兄さんはいつもそう言う」

健一はファイルを握りしめた。

「でも、俺が困った時、一度でも本気で見てくれたか?」

私は言葉に詰まった。

「父親から褒められるのは兄さん」

「母親が自慢するのも兄さん」

「会社を継ぐのも兄さん」

彼の声は次第に大きくなる。

「俺はいつも二番目だった」

私は静かに言った。

「だから、人の命を奪おうとしたのか」

健一は黙った。

その沈黙が答えだった。

「田村も翔太も、お前が動かしていたのか」

健一はファイルを見る。

「最初は違った」

「何?」

「田村が計画を持ってきた」

私は驚いた。

「田村が?」

「でも、最後に決めたのは俺だ」

健一は続けた。

「兄さんが持っている財産を、正しい形に戻しただけだ」

私は怒りより悲しみを感じた。

「正しい?」

「そうだ」

「家族を壊すことが?」

健一は目を逸らした。

その時、里奈が前に出た。

「叔父さん」

健一が彼女を見る。

「あなたは私も利用した」

「……」

「私がお父さんを裏切るように仕向けた」

健一は答えなかった。

「私、お父さんのお金を奪った」

里奈の声が震える。

「でも、それ以上に許せないことがある」

「何だ」

「お父さんを一人にしたこと」

健一の表情が少し揺れた。

その瞬間。

警察官がファイルを確認した。

「これは……」

私は聞く。

「何ですか」

警察官は写真を見せた。

そこには、妻の診療記録。

そして改ざん履歴。

「健一さん」

警察官が言う。

「あなたは奥様の治療情報にも関与していましたね」

部屋が静まり返る。

私の呼吸が止まった。

「妻の死に……関係しているのか」

健一は答えなかった。

しかし、その顔が全てを語っていた。

私は震える声で聞いた。

「なぜだ」

健一は小さく呟いた。

「奥さんが、全部気づいたからだ」

その瞬間。

私は理解した。

妻は殺されたのではない。

妻は最後まで、私たちを守ろうとしていた。

そして健一は、その秘密を消そうとしていた。

しかし、まだ一つだけ分からなかった。

妻が最後に残した証拠。

それはどこにあるのか。

健一が持っていたファイルの最後のページ。

そこには一つの住所が書かれていた。

そして、その住所を見た瞬間。

私は震えた。

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そこは――

妻が最後に訪れた場所だった。

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