Chapter 5: 娘を操る男
翌朝。
私は一睡もできなかった。
翔太の最後の言葉が頭から離れない。
「あなたが死んだ後に誰が何を受け取るか」
それは何を意味するのか。
私は急いで書類棚を開けた。
妻が亡くなった後、整理できずに残していた重要書類。
保険。
土地。
預金。
その中に一つだけ、見覚えのない封筒があった。
差出人。
弁護士事務所。
私は眉をひそめた。
なぜこんなものがある。
封を開ける。
中には遺産に関する確認書類が入っていた。
そして最後のページ。
そこには、私の署名欄。
だが、署名はまだしていない。
「これは……」
背後から声がした。
「お父さん」
振り返ると、里奈が立っていた。
顔色が悪い。
「いつ帰った」
「朝」
「翔太は?」
里奈は黙った。
その表情だけで分かった。
何かあった。
「何をされた」
「……」
「言え」
里奈は涙をこぼした。
「翔太は、私に嘘をついてた」
私は黙って聞いた。
「保釈金だけじゃなかった」
「何だ」
「彼は……お父さんの財産について調べていた」
やはり。
「いつから?」
「半年くらい前」
私は拳を握った。
「なぜ今まで言わなかった」
里奈は俯いた。
「怖かった」
「怖かった?」
「翔太が怒ると、別人みたいになるから」
私は胸が痛んだ。
娘は利用されていた。
でも同時に、娘自身も私を傷つけた。
「それでも、お前は私のお金を使った」
里奈は泣いた。
「分かってる」
「分かっているなら、なぜ」
「翔太に言われたの」
彼女は震える声で続けた。
「『お父さんは手術しても助からないかもしれない。でも俺たちの未来は今決まる』って」
私は目を閉じた。
最低な言葉だった。
「それを信じたのか」
「……」
「私より?」
里奈は泣き崩れた。
「違う」
「違わない」
静かな声だった。
「結果がそうだった」
その時、玄関のチャイムが鳴った。
二人で顔を上げる。
警察だった。
昨日の警察官が立っていた。
「〇〇さん、少しよろしいですか」
私は頷いた。
警察官は封筒を差し出した。
「翔太さんについて、新しい情報が出ました」
中を見る。
そこには複数の写真。
翔太が知らない人物と会っている姿。
そして一枚の契約書。
「これは?」
「詐欺事件に関する資料です」
私は息を呑んだ。
「翔太さんは以前から、高齢者の財産を狙った疑いがあります」
里奈が震えた。
「そんな……」
警察官は続ける。
「ただ、問題があります」
「何ですか?」
「彼はあなた方の家族情報をかなり詳しく把握していました」
私は嫌な予感がした。
「誰かが情報を渡していた可能性があります」
沈黙。
警察官の視線が里奈に向く。
里奈は首を振った。
「違います」
「分かっています」
警察官は言った。
「しかし、もう一人関係者がいます」
「誰ですか」
警察官は一枚の写真を出した。
その写真を見た瞬間。
私は言葉を失った。
そこに写っていた人物。
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それは――
私が20年間、家族同然に信頼していた人物だった。