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Chapter 11: 最も近くにいた敵

ロビーの空気が変わった。

父は一歩も動けなかった。

私はその人物を見る。

年齢を重ねた姿。

しかし、その顔は写真で見たことがある。

母の古いアルバム。

父の昔の友人。

そして。

このホテルの元顧問。

「橘修司」

父が名前を呟いた。

男は微笑んだ。

「久しぶりだな、誠一」

その声には、昔からの親しさがあった。

だからこそ。

怖かった。

父は私の前に立った。

「なぜここにいる」

橘は周囲を見渡した。

「懐かしい場所だからな」

「質問に答えろ」

父の声は冷たい。

橘は笑った。

「相変わらず警戒心が強い」

私は二人を見る。

明らかに普通ではない。

父がこれほど警戒する相手を、私は知らなかった。

「あなたは誰?」

私が聞くと、橘は私を見る。

「美咲か」

その瞬間。

背筋が凍った。

「私のことを知っているの?」

「もちろん」

橘はゆっくり近づいた。

「君が生まれた日から知っている」

父が遮る。

「近づくな」

橘は止まった。

「まだ彼女には何も話していないのか」

父の沈黙。

それだけで十分だった。

「お父さん」

私は振り向く。

「何を隠しているの?」

父は苦しそうな顔をした。

橘が口を開く。

「彼は君を守った」

「でも、同時に君から選択肢を奪った」

父が睨む。

「黙れ」

「事実だろう」

私は混乱した。

「誰か説明して」

その声に。

二人とも黙った。

しばらくして、父が言った。

「橘は、昔このホテルの財務を担当していた」

橘が続ける。

「そして春香の一番近くにいた」

父の拳が握られる。

「彼女を利用した」

橘の笑顔が消えた。

「違う」

「なら、なぜ春香は消えた」

沈黙。

私は聞いた。

「母さんは……あなたを信じていたの?」

橘は私を見る。

「彼女は誰よりも人を見る目があった」

「答えて」

「……ああ」

彼は小さく頷いた。

「だからこそ、私は苦しんだ」

理解できなかった。

「何を?」

橘は答える。

「彼女が、最後まで誠一を選んだからだ」

父の表情が変わる。

橘は続けた。

「私は春香にホテルを任せてほしかった」

「でも彼女は言った」

橘は遠くを見る。

「美咲には、金ではなく、人を守れる人間になってほしい」

私の胸が痛んだ。

母の言葉。

何度も聞いた。

「だからあなたは……」

「奪おうとした」

橘は否定しなかった。

「そうだ」

ロビーに沈黙が落ちる。

「でも、春香は気づいていた」

父が言う。

橘は目を伏せた。

「だから、私は彼女を止めた」

「止めた?」

私は聞き返す。

「何をしたの?」

橘は答えなかった。

その時。

父のスマートフォンが鳴った。

画面を見た瞬間、父の顔が変わる。

「病院からだ」

電話に出る。

数秒後。

「何?」

父の声が震えた。

私は近づく。

「どうしたの?」

父は電話を切った。

そして私を見る。

「母さんがいる」

「え?」

「病院に搬送された」

心臓が跳ねた。

「母さんが?」

父は頷く。

しかし、その顔には喜びだけではなかった。

「でも……」

「何?」

父は低い声で言った。

「彼女は意識を失う前に、一つだけ言ったそうだ」

私は息を止める。

「何て?」

父は答えた。

「橘を信じるな」

全員が橘を見る。

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彼は初めて。

本当に驚いた顔をした。

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