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Chapter 12: 地下に眠る契約

病院へ向かう車の中。

私は一言も話せなかった。

隣に座る父も。

ずっと窓の外を見ていた。

15年。

父は母が死んだと思っていた。

私もそうだった。

なのに。

今、全てが崩れていく。

病院に到着すると、医師が私たちを迎えた。

「西園寺さんですね」

父が頷く。

「妻は?」

医師は少し困った顔をした。

「現在、検査中です」

「命に別状は?」

「ありません」

その言葉で、父の肩から少し力が抜けた。

私は初めて見た。

父が安心する姿を。

しばらくして。

病室。

そこに母がいた。

眠っている。

15年ぶり。

写真ではなく。

本物の母。

私はベッドの横に座った。

「母さん」

声が震える。

すると。

母の指が少し動いた。

「……美咲」

涙が溢れた。

「母さん」

母はゆっくり目を開けた。

「大きくなったね」

その一言で。

15年分の感情が溢れた。

私は母の手を握った。

「どうして」

「ごめんね」

「どうして私を置いていったの」

母は涙を流した。

「置いていったんじゃない」

「でも」

「守るためだった」

母は父を見る。

「誠一」

父は近づいた。

二人は何も言わなかった。

ただ、長い間見つめ合った。

そして母が言った。

「あなたは約束を守ってくれた」

父は首を振った。

「守れなかった」

「いいえ」

母は微笑む。

「美咲を守った」

その夜。

母は少しずつ真実を話した。

15年前。

ホテル内部で不正な資金移動が発覚した。

それを調べていた母は。

ある人物が関わっていることを知った。

しかし、その人物は強大だった。

「誰?」

私が聞く。

母は答えた。

「橘修司」

父が黙る。

母は続ける。

「でも、彼一人ではなかった」

私は息を止める。

「協力者がいた」

「誰?」

母は私を見る。

「まだ分からない」

その時。

父が言った。

「地下室へ行こう」

私は驚く。

「今?」

父は頷いた。

「春香が残したものを確認する」

数時間後。

私たちは旧ホテル棟へ戻った。

地下への扉。

父が鍵を差し込む。

中には小さな保管室があった。

中央に一つの箱。

母が震える手で開ける。

中には。

古い契約書。

そして。

一枚の手紙。

『美咲へ』

私は読む。

『もしあなたがこの箱を開ける日が来たなら、私はもう隠れる必要がなくなったということ』

涙が落ちる。

『このホテルの本当の価値は、土地でもお金でもありません』

『人です』

ページをめくる。

最後の部分。

『ただし、一つだけ気をつけて』

『あなたの一番近くにいる人を疑いなさい』

私は顔を上げた。

「一番近く?」

父も同時に気づいた。

箱の底。

もう一枚の書類。

そこには。

最近の日付。

そして署名。

私は凍りついた。

署名した人物。

それは。

「……私」

自分の名前だった。

しかし。

私はこの書類に署名した覚えがない。

父が青ざめる。

「これは偽造だ」

その瞬間。

地下室の奥から声がした。

「違う」

全員が振り向く。

暗闇の中。

誰かが立っていた。

「それは偽物じゃない」

その人物は静かに言った。

「美咲本人が署名したものだ」

私は息を止めた。

そして、その人物が姿を現した瞬間。

私は言葉を失った。

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そこにいたのは。

私自身だった。

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