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Chapter 6: 真夜中の旧ホテル棟

午前0時。

私は旧ホテル棟の前に立っていた。

現在使われていない、20年前に閉鎖された建物。

母が生前、よく話していた場所。

「ここにはホテルの始まりがある」

幼い頃、そう言っていた。

風が冷たい。

手の中のスマートフォンが震える。

私は何度も父へ連絡しようとした。

でも、できなかった。

もし本当に父を脅す材料を持っているなら。

私が行かなければ、何かが起きるかもしれない。

古い扉を開ける。

ギィィ……。

暗い廊下。

埃の匂い。

壁には昔のホテル写真が飾られていた。

私は懐中電灯を向ける。

そこに、一枚の写真があった。

若い母。

そして隣にいた人物。

私は息を止めた。

その人物は――

叔父、隆司だった。

「やっぱり来たか」

背後から声がした。

振り返る。

そこにいたのは。

神谷蓮だった。

「……なぜあなたが?」

蓮は苦しそうな顔をした。

「俺も呼ばれた」

「嘘」

「本当だ」

彼は一枚の封筒を見せた。

「俺にも同じメッセージが届いた」

私は警戒した。

「あなたを信用できると思う?」

蓮は黙った。

そして頭を下げた。

「無理だろうな」

意外な言葉だった。

「昨日まで、俺はお前を見下していた」

「……」

「自分の家の名前だけで、何でも許されると思っていた」

蓮は拳を握った。

「でも、昨日初めてわかった」

彼は私を見る。

「俺は何も持っていなかった」

その時。

奥の部屋から音がした。

二人で顔を見合わせる。

ゆっくり扉を開ける。

中には古い机。

その上に、一冊の日記が置かれていた。

表紙には母の名前。

『西園寺春香』

私の手が震えた。

「お母さん……」

日記を開く。

最初のページ。

そこには母の字。

『もし美咲がこれを読む日が来たなら、私はもう隣にいないでしょう』

涙が落ちそうになる。

ページをめくる。

『私は信じていた人に裏切られました』

次の行。

『隆司を疑いたくなかった』

息が止まる。

蓮も画面を覗き込む。

「叔父……」

さらに読み進める。

『でも、ホテルの権利書を改ざんした証拠を見つけた』

『そして、私を止めようとした』

手が震えた。

母は事故ではなかった。

その可能性が、現実になっていく。

突然。

部屋の電気が消えた。

真っ暗。

「誰かいる!」

蓮の声。

次の瞬間。

廊下から足音。

ゆっくり近づいてくる。

私は日記を胸に抱えた。

そして暗闇の中から、聞き覚えのある声が響いた。

「それを読む資格が、お前にあると思うのか?」

その声。

私は知っていた。

「……叔父さん」

西園寺隆司が、暗闇から姿を現した。

彼は笑っていた。

しかし、その笑顔は昔の優しいものではなかった。

「美咲」

「なぜ……」

叔父はゆっくり近づく。

「君の母親も、同じ顔をしていたよ」

私の背筋が凍る。

「何をしたの?」

叔父は答えなかった。

代わりに、冷たく言った。

「君は知らない方が幸せだった」

そして彼は、私の手にある日記を見る。

「それを渡せ」

私は一歩下がった。

「嫌です」

叔父の表情が変わる。

「そうか」

沈黙。

「なら、君の父親に聞いてみるといい」

叔父はスマートフォンを取り出した。

画面には、父が映っていた。

縛られている。

「お父さん……?」

叔父は静かに笑った。

「選べ、美咲」

「日記を渡すか」

「それとも――」

彼は画面を見せた。

「父親の秘密を知るか」

その瞬間。

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私は理解した。

本当の戦いは、ここから始まる。

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