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Chapter 3: 隠された契約書

翌朝。

私は病院で検査を受けた後、ホテルへ戻った。

頬には薄い冷却シート。

足には少し痛みが残っていた。

でも、私が一番気になっていたのは、自分の怪我ではなかった。

神谷蓮が、なぜあの日ホテルへ来たのか。

父は私に詳しい説明を避けていた。

「美咲、今は休め」

そう言っただけだった。

でも私は知っていた。

父が何かを隠している時の表情を。

幼い頃から見てきた。

あの表情は、ただの怒りではない。

もっと深い問題が起きている時の顔だった。

午後。

私は父の執務室へ向かった。

ドアをノックする。

「入れ」

中には父と、昨日の警備主任がいた。

父は私を見ると驚いた。

「美咲。まだ休んでいなさいと言っただろう」

「お父さん」

私は椅子に座った。

「神谷さんは、何を探していたの?」

沈黙。

父は窓の外を見た。

東京の街が夕日に染まっていた。

「このホテルの買収契約書だ」

「でも、もう破談にしたんでしょう?」

「そうだ」

父は頷いた。

「しかし、彼が欲しがっていたのは契約書そのものではない」

警備主任が資料を開いた。

「神谷氏は、買収交渉の中に含まれていたある情報を探していました」

「情報?」

父は静かに言った。

「このホテルを建てた時の、創業者名簿だ」

私は眉をひそめた。

「どうしてそんなものを?」

父は答えなかった。

その沈黙が、逆に答えだった。

何かある。

大きな秘密が。

その時、執務室のドアが開いた。

秘書が慌てた様子で入ってきた。

「会長」

「どうした」

「神谷蓮様が来ています」

父の表情が変わる。

「追い返せ」

しかし秘書は続けた。

「それが……彼は一人ではありません」

「誰とだ?」

秘書は小さな声で答えた。

「神谷社長本人です」

数分後。

応接室。

神谷蓮は昨日とは別人のようだった。

高級スーツ。

整えられた髪。

しかし、その目には焦りが浮かんでいた。

隣に座る父親、神谷社長は深く頭を下げた。

「西園寺会長」

父は無表情だった。

「ご用件は?」

神谷社長は息子を見る。

「まず、息子の件について謝罪させてください」

蓮は黙っていた。

昨日までの態度はない。

「申し訳ありませんでした」

神谷社長が頭を下げる。

私はその姿を見ても、簡単には許せなかった。

父は言った。

「謝罪は受けます。しかし、それだけでは終わりません」

「承知しています」

神谷社長は苦しそうに言った。

「ただ……一つだけお願いがあります」

「何ですか」

「息子が探していた資料について、話をさせてください」

父の目が細くなる。

「あなたは知っていたのですか」

「はい」

神谷社長は拳を握った。

「息子は、ある人物に利用されていました」

蓮が顔を上げる。

「父さん……」

「黙れ」

初めて聞く強い声だった。

神谷社長は続けた。

「蓮は、自分がホテルを支配できると思っていた。しかし、彼に近づいた人物がいました」

「誰ですか?」

私が聞くと、神谷社長は私を見る。

そして言った。

「西園寺家の内部事情を知っている人物です」

背筋が冷えた。

父も表情を変えた。

「名前は?」

神谷社長は答えた。

「まだ確証はありません」

その時。

警備主任のスマートフォンが鳴った。

彼は画面を見て、顔色を変えた。

「会長……」

「何だ」

「昨日押収した神谷氏の端末から、新しいデータが見つかりました」

父が立ち上がる。

「見せろ」

警備主任が画面を開く。

そこには一枚の写真。

ホテルの古い書類。

そして、その下に書かれた名前。

私は息を止めた。

そこにあった名前は。

西園寺家のものではなかった。

私の名前だった。

「……美咲」

父の声が震えた。

画面には、私が知らない出生記録の一部が映っていた。

そして、その横には一つのメッセージが残されていた。

『彼女が本当の所有者だ』

私は画面を見つめた。

昨日、私を見下していた男。

神谷蓮。

彼が探していた秘密。

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それは、このホテルではなく――

私自身の秘密だった。

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