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Chapter 10: 兄の影に隠された真実

「俺の……兄?」

その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。

私は兄の存在を思い出した。

正確には。

思い出したくなかった名前だった。

俊彦。

私より七歳年上の兄。

幼い頃から何でもできる人間だった。

勉強も、仕事も、人付き合いも。

周囲からは「完璧な長男」と呼ばれていた。

しかし、父が亡くなった後、家族の中で起きたある出来事を境に、私たちはほとんど連絡を取らなくなった。

「どういうことだ」

私は由香里を見る。

「なぜ兄が関係している?」

由香里は椅子に座り込んだ。

「あなたのお兄さんは……昔から咲希のお母さんを嫌っていた」

「玲子を?」

「うん」

私は眉をひそめた。

玲子は誰にでも優しい人だった。

兄が彼女を嫌う理由など思いつかなかった。

「理由は?」

由香里は震える声で話した。

「俊彦さんは、あなたが玲子さんと結婚することで、家の財産があなたに渡ると思っていた」

私は息を止めた。

「そんな……」

「彼は、あなたが父親から受け継いだものを全部奪ったと思っていた」

私は拳を握った。

確かに、父は遺産の一部を私に残していた。

しかし、それは金額の問題ではなかった。

父は病気で弱っていた時、私に言った。

『お前は人を大切にするから、この家を任せたい』

それだけだった。

「でも、それと咲希のことがどう関係する?」

由香里は目を伏せた。

「俊彦さんは、玲子さんが亡くなった後もあなたを監視していた」

「監視?」

「そして、私に近づいてきた」

その言葉に、私は嫌な予感がした。

「何を言われた?」

由香里は唇を震わせた。

「あなたの家族を守りたいなら、協力しろって」

「……」

「最初は断った」

由香里は涙を流した。

「でも、彼は昔のことを知っていた」

「何を?」

「美咲のこと」

部屋の空気が変わった。

美咲がゆっくり顔を上げた。

「私?」

由香里は頷いた。

「あなたを引き取った時のこと」

美咲は不安そうに聞く。

「何か問題があったの?」

由香里は黙った。

私は立ち上がった。

「今すぐ話せ」

長い沈黙の後。

由香里は言った。

「美咲は……私の実の娘じゃない」

美咲の顔から表情が消えた。

「……何?」

「あなたは、私の姉の子だった」

由香里は続けた。

「姉が亡くなった後、私が育てることになった」

美咲は震えていた。

「じゃあ……私は」

「あなたはずっと私の娘だと思って育ててきた」

由香里は泣いた。

「でも、俊彦さんはその秘密を知っていた」

私は理解した。

兄は人の弱みを握っていた。

「だから、お前を脅したのか」

由香里は頷いた。

「咲希を不利にするように仕向けろって」

「なぜ?」

由香里は小さく言った。

「あなたに家を捨てさせるため」

その瞬間。

すべてが繋がり始めた。

兄の目的は、咲希の奨学金ではない。

家族そのものを壊すことだった。

翌日。

私は俊彦に会いに行った。

彼は高級なオフィスの最上階にいた。

私を見ると、昔と変わらない笑顔を浮かべた。

「久しぶりだな」

私は椅子に座らなかった。

「なぜだ」

俊彦は笑った。

「何が?」

「なぜ咲希を巻き込んだ」

彼は窓の外を見る。

「咲希?」

まるで知らない名前のように言った。

「お前は昔からそうだ」

「何がだ」

「人のために動く」

俊彦は振り返った。

「だから父親にも選ばれた」

その言葉で確信した。

彼はまだ過去に囚われている。

「父はお前を愛していた」

私は言った。

「でも、認めなかっただけだ」

俊彦の表情が変わる。

「黙れ」

初めて怒りが見えた。

「お前は何も分かっていない」

「じゃあ教えろ」

沈黙。

そして俊彦は笑った。

「いいだろう」

彼は引き出しから一枚の書類を出した。

「これを見れば分かる」

私は紙を受け取った。

そこには父の署名。

そして。

見覚えのある文字。

「これは……」

俊彦は言った。

「父が死ぬ前に残した本当の遺言だ」

私は読み始めた。

数秒後。

手が震えた。

そこには、私の知らない一文があった。

『全財産を、俊彦と咲希のために残す』

私は顔を上げた。

「咲希……?」

俊彦は笑った。

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「そうだ」

「お前の娘は、最初から俺の計画の中心だった」

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