Amazed

Chapter 6: 姉妹の間に置かれた罠

「そんな……」

美咲の顔から血の気が引いた。

「私、そんな申請してない」

電話を切った後、リビングには重い沈黙が流れた。

由香里は何も言わなかった。

それが一番怖かった。

「美咲」

私はゆっくり聞いた。

「大学に何か送ったことはあるか?」

「ない」

彼女は即答した。

「本当に?」

「本当です」

美咲の目から涙が落ちる。

「私、咲希の奨学金が欲しかったなんて思ってない」

咲希は黙って彼女を見ていた。

「じゃあ、なぜ名前が使われたんだ」

誰も答えられなかった。

その日の夕方、大学から追加資料が届いた。

黒田さんが直接持ってきた。

「確認してください」

封筒の中には、申請履歴が入っていた。

申請者名。

美咲。

しかし署名。

また違和感があった。

私は紙を見つめた。

「これも偽物だ」

咲希が言った。

「……分かるの?」

私は尋ねた。

彼女は頷いた。

「美咲の字じゃない」

美咲は泣きながら頷いた。

「私、そんな字書かない」

黒田さんは静かに言った。

「つまり、誰かが二人の娘さんの名前を使って、二人を争わせようとしていた可能性があります」

私は妻を見た。

しかし由香里は首を振った。

「私じゃない」

初めて聞いた、必死な否定だった。

「信じて」

私は答えなかった。

なぜなら、もう簡単には信じられなかったからだ。

その夜。

私は書斎で過去の書類を探していた。

咲希が幼い頃から残していた記録。

学校の通知。

作文。

写真。

その中に、一枚の古い封筒が挟まっていた。

差出人。

知らない名前。

中を開ける。

そこには、短い手紙が入っていた。

『あなたの娘さんについて、どうしても伝えたいことがあります』

私は眉をひそめた。

下を見る。

署名。

その名前を見た瞬間、手が止まった。

それは――

咲希の実の母親の名前だった。

私は震える手で続きを読んだ。

『もし私に何かあった時、この子を守ってください』 『そして、由香里さんには絶対に渡さないでください』

心臓が大きく鳴った。

由香里には渡さない?

どういう意味だ?

私はさらに読み進めた。

『彼女は、優しい顔をしています』 『でも、子どもの人生を自分の理想のために変えてしまう人です』

その瞬間。

背後から声がした。

「それ……どこで見つけたの?」

振り返る。

そこには由香里が立っていた。

顔色が真っ青だった。

「この手紙を知っているのか?」

彼女は何も言わなかった。

「答えろ」

由香里の目に、初めて恐怖が浮かんだ。

そして小さく呟いた。

「あなたには……知られるべきじゃなかった」

私は立ち上がった。

「何を隠している?」

由香里は震える声で言った。

「咲希のお母さんが亡くなる前に……」

一瞬、彼女は言葉を止めた。

「私に、ある約束をさせたの」

私は息を止めた。

「その約束とは?」

由香里は涙を流しながら答えた。

「咲希には……絶対に本当のことを言わないこと」

その瞬間。

私の中で、新しい疑問が生まれた。

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