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Chapter 2: 消された未来の証拠

「偽造……?」

由香里は乾いた笑いを漏らした。

「何を言っているんですか?そんな大げさな……」

しかし、入試広報責任者の男性、黒田さんは表情を変えなかった。

「大げさではありません」

彼はフォルダーから数枚の書類を取り出した。

「こちらが、咲希さん本人が提出した奨学金承認通知です」

紙が風に揺れる。

「そして、こちらが大学に送られた辞退届」

黒田さんはもう一枚の紙を掲げた。

「署名欄をご覧ください」

私は目を細めた。

確かに、そこには咲希の名前が書かれていた。

だが、私はすぐに違和感に気づいた。

「……字が違う」

私が呟くと、咲希が小さく頷いた。

「お父さん、分かるよね」

涙をこらえながら彼女は言った。

「私、毎年お父さんに誕生日カードを書いてきたから」

胸が締めつけられた。

十八年間見てきた娘の字だった。

間違えるはずがなかった。

由香里は焦ったように口を開いた。

「そんなの、子どもが書いた字なんて変わるでしょう?」

黒田さんは静かに首を振った。

「大学では署名確認のため、過去の提出書類と照合しています」

「……」

「さらに、辞退届が提出された日時」

彼は別の紙を指した。

「咲希さん本人が学校で模試を受けていた時間と一致しています」

庭の誰かが息を飲んだ。

つまり。

咲希は、その書類を書くことすら不可能だった。

私は妻を見た。

「由香里」

声が震えた。

「どうして……」

妻は唇を噛んだ。

「だって……仕方なかったのよ」

その言葉を聞いた瞬間、私は怒りより先に悲しみを感じた。

「仕方ない?」

「美咲だって苦労してきたのよ!」

由香里は声を荒げた。

「咲希だけが夢を叶えて、美咲だけが取り残されるなんて可哀想でしょう?」

私は信じられなかった。

「だから咲希の夢を奪ったのか?」

「奪ったんじゃない!」

妻は叫んだ。

「少し我慢してもらっただけ!」

その瞬間。

咲希が静かに笑った。

悲しい笑いだった。

「……やっぱり」

彼女は小さく呟いた。

「お母さん、私のことを娘だと思ってなかったんだね」

由香里の顔が固まった。

「何言ってるの」

「本当の娘なら、私の努力を捨てられない」

咲希の声は震えていた。

「私が何年頑張ったか知ってる?」

誰も答えなかった。

「夜中まで勉強して、何回も不合格の夢を見て、それでも諦めなかった」

彼女は胸元を押さえた。

「やっと掴んだ未来だったのに」

私は拳を握った。

その時、黒田さんが一歩前へ出た。

「実は、大学側が今日ここへ来た理由はもう一つあります」

彼は咲希を見る。

「咲希さんの奨学金は、辞退処理されていません」

「え……?」

咲希が顔を上げた。

「大学では不自然な点が多かったため、確認作業を続けていました」

黒田さんは微笑んだ。

「あなたの席は、まだ残っています」

咲希の目から大粒の涙が落ちた。

「本当に……?」

「はい」

しかし、その直後。

黒田さんの表情が少し曇った。

「ただし」

全員が彼を見る。

「問題は、辞退届を出した人物だけではありません」

彼は最後の書類を取り出した。

「この書類には、もう一人の名前が記録されています」

私は眉をひそめた。

「もう一人?」

黒田さんは紙を裏返した。

そこに書かれていた名前を見た瞬間。

私は息を止めた。

そこには――

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「美咲」

という文字があった。

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