Chapter 9: 崩れ始めた偽りの家族
翌朝、私は家族全員をリビングに集めた。
もう誰かを守るために嘘をつく時間は終わった。
「この書類について話す」
私は机の上に置いた。
由香里はそれを見るなり、顔を青ざめた。
美咲は何も言わなかった。
咲希だけが、真っ直ぐ前を見ていた。
「誰かが俺の名前を使った」
私は言った。
「そして咲希の奨学金を変更しようとした」
沈黙。
「知っていることを全部話してくれ」
しばらくして。
美咲が口を開いた。
「私……一つだけ言ってないことがあります」
由香里が振り返る。
「美咲」
「ごめん、お母さん」
美咲は泣きながら続けた。
「私、怖かった」
「何が?」
「お母さんが変わっていくのが」
その言葉に、由香里の表情が変わる。
美咲は話した。
「咲希が高校に入った頃から、お母さんはずっと言ってた」
『あなたも咲希と同じくらい幸せになる権利がある』
「最初は嬉しかった」
美咲は俯いた。
「でも、いつの間にか意味が変わっていた」
「意味?」
「咲希が成功すると、私が失敗したみたいに言われるようになった」
咲希は静かに聞いていた。
「私、咲希が羨ましかったことはある」
美咲は涙を拭った。
「でも、奪いたいとは思わなかった」
その時。
由香里が突然立ち上がった。
「もうやめて」
彼女は震えていた。
「全部、私が悪いって言いたいの?」
私は答えなかった。
「私は家族を守ろうとしただけ!」
「違う」
咲希が初めて強く言った。
由香里が止まる。
「お母さんは、家族を守ったんじゃない」
咲希の声は震えていた。
「自分が安心できる形に、私たちを変えようとしただけ」
その言葉に、由香里は何も言えなかった。
その日の午後。
私は警察ではなく、まず大学の調査担当者と話すことにした。
誰が書類を作ったのか。
誰が私の情報を使ったのか。
調査の結果。
一つの事実が出た。
「この書類を作成した端末」
担当者が言った。
「自宅のものではありません」
私は少し安心した。
しかし次の言葉で凍りついた。
「ただし、ログイン情報は奥様のものです」
由香里。
やはり彼女なのか。
しかし。
「待ってください」
担当者が続けた。
「奥様のアカウントが使われた時間、その場所に奥様はいませんでした」
「どういうことですか?」
「別の人物が、奥様の情報を利用した可能性があります」
私は混乱した。
由香里だけではない。
誰かが彼女を利用している。
その夜。
私は由香里の部屋を調べた。
責めるためではない。
真実を知るためだった。
引き出しの奥。
古い封筒があった。
中には大量の書類。
そして、一枚の写真。
写真には。
若い由香里。
幼い美咲。
そして、知らない男性。
裏には日付。
その日は、私と由香里が結婚する一年以上前だった。
さらに、写真の裏には一言。
『この子を利用する計画を忘れるな』
私は息を止めた。
由香里が書いたものではない。
筆跡が違う。
その時。
背後から声がした。
「それを見つけたんですね」
振り返る。
そこには由香里が立っていた。
しかし、彼女の顔には怒りではなく、恐怖が浮かんでいた。
「誰の計画なんだ?」
私は聞いた。
由香里は震えながら答えた。
「私も……ずっと脅されていたの」
「誰に?」
彼女はゆっくり口を開いた。
そして、その名前を言った瞬間。
私の全身が凍りついた。
May you like
「あなたの……」
「実の兄です」