Chapter 13: 最後に暴かれた名前
画面に表示された名前を見た瞬間、私は息を失った。
そこにあったのは。
「……美咲?」
私は思わず声に出した。
咲希が隣で息を呑む。
「違う」
美咲の顔から血の気が引いた。
「私じゃない」
その声は震えていた。
しかし、大学から送られてきた調査結果には、確かに彼女の名前が記録されていた。
申請者。
美咲。
本人確認。
完了。
「どうして……」
美咲は首を振った。
「私、何もしてない」
私は彼女を見た。
以前なら、疑っていたかもしれない。
でも今は分かる。
この家では、名前が何度も利用されてきた。
署名。
メール。
身分情報。
誰かが、人を操るためにその人の存在を借りていた。
「黒田さん」
私はすぐに電話をかけた。
「この結果について、もう一度確認できますか?」
電話の向こうで、黒田さんは落ち着いた声で答えた。
「もちろんです。ただ……」
「ただ?」
「大学側も違和感を感じています」
私は眉をひそめた。
「なぜですか?」
「申請に使われた美咲さんの情報は、本物です。しかし、入力された内容には本人しか知らないはずの情報が含まれていました」
私は黙った。
「つまり」
黒田さんが続ける。
「美咲さんの情報を持っている人物が、内部事情まで知った上で操作した可能性があります」
私はゆっくり周囲を見た。
家族。
秘密。
隠された過去。
そして、まだ見えない誰か。
その時、直人が口を開いた。
「僕なら、誰がやったか分かるかもしれません」
全員が彼を見る。
「何を知っている?」
直人は苦しそうな顔をした。
「母が亡くなる前、僕に言ったことがあります」
彼は小さな声で続けた。
「『もし咲希の周りで何か起きたら、俊彦さんを疑って』」
私は驚いた。
「でも、俊彦は……」
直人は首を振った。
「違います」
「え?」
「伯父さんは確かに悪いことをしました」
直人は言った。
「でも、今回のことは彼だけじゃない」
私は黙って聞いた。
「母は言っていました」
直人は目を伏せる。
「『一番怖いのは、悪意のある人間ではなく、自分が正しいと思い込んだ人間』だと」
その言葉が胸に刺さった。
由香里。
彼女のことを言っているように思えた。
しかし。
その夜。
私は決定的な証拠を見つけた。
書斎の古いパソコン。
ずっと使っていなかったものだった。
大学への申請記録を調べていると、隠されたフォルダが見つかった。
中には大量のデータ。
そして。
一つの動画ファイル。
再生すると。
画面に映ったのは、由香里だった。
しかし、彼女は誰かと話していた。
相手は映っていない。
「これで咲希は諦める」
由香里の声。
私は息を止めた。
「あなたが約束した通り、私は美咲を守る」
画面の外から男の声がした。
「違う」
その声。
聞き覚えがあった。
俊彦ではない。
もっと近い。
「あなたは守っているんじゃない」
男は言った。
「あなた自身を守っているだけだ」
由香里が黙る。
そして男が続けた。
「忘れたのか?」
「あなたが昔したことを」
動画がそこで途切れた。
私は震えながら画面を見つめた。
昔したこと。
一体何のことだ?
その時。
後ろから声がした。
「それ以上見ないで」
振り返る。
由香里だった。
彼女は泣いていた。
「お願い」
「説明しろ」
私は言った。
「もう何も隠すな」
由香里は長い沈黙の後、震える声で答えた。
「私が……」
「昔、玲子さんを裏切ったの」
空気が凍った。
「何をした?」
由香里は涙を流した。
「あなたには言えない」
「言え」
彼女は目を閉じた。
「玲子さんが亡くなる前」
「私は……」
「彼女から咲希を守るよう頼まれた」
「でも私は、その後」
由香里の声が震える。
「玲子さんの秘密を、誰かに話してしまった」
私は息を止めた。
「誰に?」
由香里は答えた。
「あなたの父親に」
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その瞬間。
全ての過去が繋がり始めた。