Chapter 11: 祖父が残した最後の願い
「咲希が……計画の中心?」
私は俊彦を睨んだ。
「どういう意味だ」
俊彦はゆっくり椅子に座った。
「お前は何も知らない」
その言葉が、昔から嫌いだった。
兄はいつもそうだった。
自分だけが真実を知っているように話す。
「父が最後に望んだことを知っているか?」
私は黙った。
俊彦は続けた。
「家族を一つに戻すことだ」
「なら、なぜ壊そうとする?」
「壊しているのはお前だ」
私は眉をひそめた。
「何?」
俊彦は書類を指した。
「父は咲希を特別に見ていた」
「孫だからだ」
「違う」
彼は首を振った。
「玲子さんの存在があったからだ」
私は黙った。
「父は玲子さんを尊敬していた」
俊彦は苦しそうに笑った。
「そして、お前が彼女を選んだことで、自分の価値観を否定されたと思った」
意味が分からなかった。
「父は、家柄や地位を重視する人間だった」
俊彦は言った。
「でも玲子さんは違った」
「だから?」
「だから父は最後に気づいた」
俊彦は書類を見る。
「本当に残すべきものは金じゃないって」
私は息を止めた。
「じゃあ、この遺言は?」
俊彦の顔から笑みが消えた。
「偽物だ」
その答えに、私は驚いた。
「何?」
「俺が作った」
沈黙。
私は怒りより先に混乱した。
「なぜそんなことを」
俊彦は答えなかった。
その時。
スマートフォンが鳴った。
黒田さんからだった。
「大変です」
「今度は何ですか?」
「過去の遺産記録を確認しました」
私は俊彦を見る。
「何が分かった?」
「あなたのお父様が本当に残した遺言書があります」
心臓が跳ねた。
「内容は?」
黒田さんは少し間を置いた。
「咲希さんへの教育資金信託です」
私は息を止めた。
「金額は?」
「大学進学から研究費まで」
私は言葉を失った。
父は。
ずっと咲希の未来を考えていた。
「そして」
黒田さんが続けた。
「管理者として指定されていた人物がいます」
私は聞いた。
「誰ですか?」
「俊彦さんです」
私はゆっくり兄を見る。
俊彦は目を逸らした。
つまり。
兄は最初から知っていた。
咲希を守るための財産を。
そして、それを利用した。
「なぜ……」
私の声が震えた。
「なぜ咲希まで?」
俊彦は小さく言った。
「羨ましかった」
その一言だった。
「何が?」
「お前だ」
彼は答えた。
「父に認められたお前」
「家族を持ったお前」
「玲子さんに愛されたお前」
俊彦の目には、長年積み重なった嫉妬があった。
「俺には何もなかった」
私は首を振った。
「だからって、娘を傷つける理由にはならない」
俊彦は黙った。
その時。
部屋のドアが開いた。
そこにいたのは。
咲希だった。
「……伯父さん」
俊彦の顔が変わった。
「いつからいた?」
咲希は涙をこらえていた。
「全部聞きました」
沈黙。
「私の人生を」
彼女は震える声で言った。
「あなたたちの争いの道具にしないで」
俊彦は何も言えなかった。
咲希は続けた。
「私は、お母さんの代わりでも、おじいちゃんの証明でもない」
その言葉に、私は胸を打たれた。
「私は私です」
部屋に静寂が落ちた。
そして俊彦は、初めて弱い顔を見せた。
「……玲子さんと同じだな」
「え?」
「言うことが」
彼は小さく笑った。
しかし次の瞬間。
彼の表情が変わった。
「でも、まだ終わっていない」
私は警戒した。
「何?」
俊彦は机の引き出しから、最後の封筒を出した。
「これを見ろ」
中には一枚の写真。
そこに写っていた人物を見た瞬間。
私は凍りついた。
写真には。
若い頃の私。
玲子。
そして。
知らない子ども。
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その裏には名前が書かれていた。
『咲希の本当の兄』