Chapter 8: 18歳で開かれた真実
封筒を持つ手が震えた。
十八歳。
つまり、玲子はずっと先の未来を考えていた。
咲希が成人に近づいた時。
自分がもう守れない時。
誰かが代わりに真実を伝えるように。
「中を見てもいいですか」
私が聞くと、老人は静かに頷いた。
「そのために来ました」
リビングへ戻ると、咲希も美咲も起きていた。
何かを感じ取ったのだろう。
「お父さん、それ……」
咲希が封筒を見る。
私は迷った。
だが、もう隠す理由はなかった。
封を開ける。
中には一枚の手紙と、古い写真が入っていた。
写真には、若い頃の玲子がいた。
そして隣には――
由香里。
私は息を止めた。
「なぜ……」
咲希も驚いた。
「お母さんと、由香里さん?」
老人が静かに話し始めた。
「お二人は昔、親友でした」
私は由香里を見る。
彼女は顔を背けた。
「知っていたのか?」
由香里は答えなかった。
手紙を読む。
『あなたへ』
『もしこの手紙を読んでいるなら、咲希はもう大人に近づいていると思います』
『私は、由香里さんを信じていました』
その一文に、私は胸を痛めた。
『彼女は優しい人でした』
『でも、人は愛するものを間違えることがあります』
私はゆっくり続きを読んだ。
『由香里さんは、誰かを守るためなら、自分が正しいと思う道へ人を押し込んでしまうところがあります』
リビングの空気が止まった。
『もし彼女が咲希の人生を決めようとしていたら、あなたが止めてください』
私は拳を握った。
玲子は全部分かっていた。
由香里の優しさの裏側にある危うさを。
「違う……」
由香里が小さく呟いた。
全員が彼女を見る。
「私は玲子を裏切ったわけじゃない」
「じゃあなぜ?」
私が聞く。
「なぜ咲希に我慢を強いた?」
由香里は涙を流した。
「怖かったのよ」
意外な答えだった。
「何が?」
「咲希が、私から離れていくのが」
彼女は震えた。
「玲子さんは完璧だった」
「そんなことない」
「あなたには分からない」
由香里は私を見る。
「咲希は、いつも玲子さんの話をしていた」
私は黙った。
「写真を見るたびに笑っていた」
由香里の声が震える。
「私はどれだけ頑張っても、本当の母親にはなれなかった」
その言葉に、美咲が顔を上げた。
「だからって……」
美咲は涙を流した。
「咲希から全部奪うの?」
由香里は答えなかった。
その夜、初めて彼女の弱さを見た。
しかし、弱さは罪を消してくれない。
翌日。
大学で再調査が始まった。
そして新たな事実が判明した。
黒田さんが私に電話をくれた。
「確認しました」
「何がですか?」
「奨学金変更申請を行った人物」
私は息を止めた。
「誰ですか?」
電話の向こうで沈黙。
「それは……」
黒田さんの声が低くなる。
「由香里さんではありません」
私は驚いた。
「では誰が?」
「記録上では」
彼は答えた。
「あなたです」
「……何?」
「あなたの本人確認情報で申請されています」
頭が真っ白になった。
「そんなはずはない」
「私たちもそう思っています」
黒田さんは続けた。
「ですが、システム上はあなたの名前になっています」
電話を切った後。
私はすぐに書斎へ向かった。
そこには私の印鑑。
身分証のコピー。
重要書類。
誰かが触れられる場所。
私は気づいた。
由香里だけではない。
誰かが私の名前まで利用している。
その夜。
咲希の部屋から叫び声が聞こえた。
「お父さん!」
駆けつけると、彼女は一枚の紙を持って震えていた。
「これ……」
紙には、大学への提出書類。
そして最後の署名欄。
そこには確かに私の名前。
しかし、その横に小さく書かれたメモがあった。
『計画通りです』
私は息を呑んだ。
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誰が書いた?
そして誰の計画なのか。