Amazed

Chapter 13: 失ったものの重さ

離婚が成立してから三ヶ月が経った。

世田谷の大きな家は、もう私たちの家ではなくなった。

正樹が何よりも大切にしていた場所。

広い庭。

高価な家具。

誰かに見せるための完璧な外観。

でも、そこにはもう温かさがなかった。

私は咲希と一緒に、小さなマンションへ引っ越した。

最初の日。

咲希は部屋を見回して言った。

「前より狭いね」

私は少し笑った。

「そうね」

「でも……」

咲希は窓を開けた。

「なんか、息がしやすい」

その言葉を聞いて、胸が熱くなった。

子供は家の大きさでは幸せにならない。

誰かが本当に自分を見てくれているか。

それだけが大事なのだ。

一方、正樹は会社を失った。

調査の結果、不正な資産移動が明らかになり、経営から退くことになった。

以前、彼の周りには多くの人がいた。

取引先。

社員。

知人。

でも、問題が起きた瞬間、ほとんどの人は離れていった。

ある日。

私は偶然、正樹と会った。

裁判所近くのカフェだった。

彼は以前のような高級スーツを着ていなかった。

普通のシャツ。

疲れた顔。

別人のようだった。

「由美」

私は向かいに座った。

「何の用?」

正樹はしばらく黙っていた。

「会社を辞めた」

「そう」

「社員には謝った」

「……」

「拓海たちにも謝った」

私は彼を見た。

「本当に?」

正樹は頷いた。

「すぐには許してくれなかった」

「当然ね」

彼は苦笑した。

「分かってる」

昔の正樹なら、絶対に認めなかった。

自分が悪かったと言うことも。

誰かに謝ることも。

でも、今の彼には初めて弱さがあった。

「蓮とは会った」

私は驚いた。

「本当に?」

「うん」

正樹は窓の外を見た。

「ずっと逃げてた」

「俺は過去を消せると思ってた」

「でも、消したつもりのものが、全部戻ってきた」

私は何も言わなかった。

正樹は続けた。

「蓮は言った」

「父親になってほしかったわけじゃない」

「ただ、一度でいいから嘘をつかずに向き合ってほしかったって」

その言葉に、私は胸が痛んだ。

蓮もまた、正樹の嘘に傷ついた一人だった。

「由美」

正樹が私を見る。

「俺はどうすればいい?」

突然の質問だった。

昔なら、私は答えを探そうとした。

夫を支えようとした。

でも今は違う。

「自分で考えて」

正樹は黙った。

「今まであなたは、誰かに答えを求めすぎた」

「母親」

「妻」

「子供たち」

「でも、自分の人生の責任は、自分で取るしかない」

彼は静かに頷いた。

その夜。

家に帰ると、拓海たちが来ていた。

「母さん」

拓海が言った。

「話がある」

私は三人を見る。

以前とは違った。

彼らはもう、父親の後ろに隠れていなかった。

拓海が封筒を出した。

「これ」

中には、会社関連の資料だった。

「父さんが隠していた取引の詳細」

「まだ残っていた」

私は驚いた。

「どうして私に?」

健太が答えた。

「全部終わらせたいから」

翔太も頷いた。

「俺たちも責任を取らないといけない」

私は三人を見た。

「あなたたちはもう十分苦しんだ」

拓海は首を振った。

「違う」

「母さんが一人で背負っていた時、俺たちは笑ってた」

「だから、逃げたくない」

その言葉を聞いて、私は初めて彼らの成長を感じた。

まだ傷は残っている。

でも、人は失敗の後にも変われる。

数日後。

田中さんから連絡が来た。

「由美さん」

「最後の資産調査で、新しい事実が分かりました」

私はため息をついた。

「まだ何かあるんですか?」

田中さんは少し間を置いた。

「はい」

「正樹さんが隠していた資金の中に……」

「あなたの会社設立前の資金があります」

私は眉をひそめた。

「私の?」

「はい」

「そして、そのお金がなぜ消えたのか」

田中さんの声が低くなる。

「正樹さん自身も知らない可能性があります」

私は驚いた。

「どういう意味ですか?」

田中さんは答えた。

「誰かが、正樹さんを利用していた可能性があります」

私は言葉を失った。

正樹は全ての黒幕だと思っていた。

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でも。

もしかすると、彼自身もまた誰かの計画の中にいたのかもしれない。

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