Chapter 8: 壊れた兄弟の絆
正樹の秘密が明らかになった後、家族の空気は変わった。
息子たちは、もう父親の背中を追わなかった。
でも、簡単に私の元へ戻れるわけでもなかった。
傷は消えない。
裏切りは、謝罪だけでは消えない。
ある夜。
拓海がリビングに座っていた。
「母さん」
私は顔を上げた。
「何?」
彼は長い間黙っていた。
「俺、大学を辞めようと思う」
私は驚いた。
「どうして?」
「父さんのお金で続ける資格がない気がする」
私は首を振った。
「それは違う」
拓海を見る。
「あなたが間違えたことと、あなたの人生は別よ」
拓海は目を赤くした。
「でも母さんを傷つけた」
「そうね」
私は正直に言った。
「傷ついた」
彼は俯いた。
「でも、あなたが向き合おうとしていることも分かってる」
拓海は涙を流した。
「母さん……」
私は言った。
「許すには時間が必要」
「でも、逃げないで」
拓海は頷いた。
その後、健太も話に来た。
彼はもっと苦しそうだった。
「俺、父さんに利用されたって分かってから……」
「自分が嫌になった」
私は静かに聞いた。
「なぜ?」
「お金が欲しかったから」
彼の声が震える。
「父さんみたいになりたくないって思ってたのに、気づいたら同じことしてた」
私は答えた。
「気づいたなら、そこで止まれる」
健太は黙った。
「人は間違える」
「でも、間違いを正しいと言い続けた時、本当に壊れるの」
一方、翔太は以前とは別人のようになっていた。
学校でも元気がなくなった。
ある日、咲希が私に言った。
「翔太兄ちゃん、毎日謝ってくる」
「私、どうしたらいいか分からない」
私は彼女の髪を撫でた。
「咲希は無理に許さなくていい」
「でも、あなたが苦しみ続ける必要もない」
その夜。
翔太は咲希の部屋の前で立っていた。
「咲希」
ドア越しに声をかける。
「聞いてほしい」
しばらく沈黙。
「何?」
翔太は深呼吸した。
「俺、父さんが正しいと思ってた」
「金がある方が勝ちだと思ってた」
「でも違った」
「一番大事なものを、自分で壊してた」
ドアが少し開いた。
咲希が顔を出す。
「今さら?」
翔太は泣きそうになった。
「うん」
「今さらだ」
「だから、許してもらえなくても謝りたい」
咲希はしばらく彼を見た。
そして小さく言った。
「……少しだけなら聞く」
翔太は頷いた。
その姿を、私は遠くから見ていた。
家族は壊れた。
でも、完全には終わっていなかった。
一方で、正樹はまだ諦めていなかった。
数日後。
彼の弁護士から連絡が来た。
「ご主人が条件変更を申し出ています」
私は書類を見る。
「条件?」
弁護士は言った。
「親権についてです」
「正樹さんは、咲希さんの親権を改めて要求しています」
私は眉をひそめた。
「なぜ?」
弁護士は答えた。
「財産分与の関係で、咲希さんを重要な存在として扱っています」
その瞬間。
私は理解した。
正樹はまだ娘を一人の人間として見ていない。
彼にとって咲希は、最後に残ったカードだった。
そして、その夜。
咲希の携帯に一通のメッセージが届いた。
May you like
送信者は――
正樹だった。