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Chapter 4: 裏切りの名前

書類に書かれていた名前を見た瞬間、私の指先から力が抜けた。

そこにあった名前。

それは、私が22年間、家族の一員だと思っていた人物だった。

「……嘘」

私の声は、自分でも聞こえないほど小さかった。

田中さんが心配そうに私を見る。

「由美さん、落ち着いて確認してください」

でも、落ち着けるはずがなかった。

受取人欄に書かれていた名前。

それは――私の弟、和也だった。

「どうして……」

頭の中で何度も同じ言葉が繰り返された。

和也は、私たちの会社を立ち上げた時から一緒に苦労してきた。

父が亡くなった後、家族の中で一番私を支えてくれた存在だった。

結婚した時も、子供が生まれた時も、いつも言ってくれた。

「姉ちゃん、何があっても俺は味方だから」

その言葉を、私は信じていた。

まさか、その人間が正樹と一緒に私から何かを奪っていたなんて。

「由美さん」

田中さんの声で我に返った。

「この口座への送金額は、約7000万円です」

私は書類を握りしめた。

「和也が……」

「はい」

田中さんは静かに頷いた。

「ただ、まだ確認すべきことがあります」

私は顔を上げた。

「確認?」

「この送金が、和也さん自身の意思だったのか。それとも……」

田中さんは言葉を止めた。

でも、その先は分かった。

正樹に利用された可能性。

私は廊下の窓から外を見た。

東京の街は、いつもと何も変わらない。

車が走り、人が歩いている。

なのに、私の世界だけが崩れていた。

その夜。

私は久しぶりに実家を訪ねた。

和也は玄関を開けた瞬間、私の顔を見て固まった。

「姉ちゃん……」

私は何も言わず、テーブルの上に資料を置いた。

和也の顔色が変わった。

「これ……」

「説明して」

短い言葉だった。

和也は椅子に座った。

長い沈黙の後、彼は顔を伏せた。

「……正樹さんに頼まれた」

「いつから?」

「三年前」

胸が締め付けられた。

「三年前?」

和也は唇を噛んだ。

「会社の資金繰りが厳しい時期があっただろ」

「正樹さんが、裏で投資家を探してくれるって言ったんだ」

私は冷たく笑った。

「投資家?」

「違ったでしょう」

和也は黙った。

その沈黙が答えだった。

「あなたも知っていたのね」

「姉ちゃん……」

「私のお金を隠していたこと」

和也の目に涙が浮かんだ。

「最初は知らなかった」

「でも途中で気づいた」

「それでも……止められなかった」

私は椅子から立ち上がった。

「どうして?」

和也は震える声で言った。

「借金があったんだ」

「正樹さんが全部返すって言った」

「俺は……馬鹿だった」

私は目を閉じた。

怒りで震えていた。

でも、それ以上に悲しかった。

家族だと思っていた人たちが、次々と私の前から消えていくようだった。

「和也」

私は静かに言った。

「あなたが失ったのは、お金じゃない」

「信頼よ」

彼は泣いた。

でも私は、その場で許すことはできなかった。

翌日。

家庭裁判所で、正樹はまだ強気だった。

「弟さんの件は、私には関係ありません」

正樹は弁護士の後ろで言った。

「勝手に彼がやったことです」

私は彼を見た。

「本当に?」

「あなたが和也に借金返済を持ちかけた証拠があります」

正樹の表情が変わる。

田中さんが資料を提出した。

「こちらは、正樹さんの個人口座から和也さんへの入金記録です」

調停員が資料を見る。

正樹は黙った。

「つまり、あなたは私の弟を買った」

私が言うと、正樹は初めて怒りを見せた。

「買った?」

彼は笑った。

「違うだろ」

「家族なら助け合うものだ」

その言葉に、私は背筋が冷えた。

「家族?」

私はゆっくり首を振った。

「あなたがその言葉を使うなんて」

正樹は睨んだ。

「由美、お前は何も分かっていない」

「俺は家族を守ろうとしただけだ」

その瞬間。

裁判官が口を開いた。

「正樹さん」

「守ろうとした家族とは、どなたのことですか?」

部屋が静まり返る。

正樹の顔から余裕が消えた。

そして裁判官は次の資料を開いた。

「この女性との関係についても、説明していただきます」

正樹の目が揺れた。

私はその瞬間、気づいた。

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まだ隠されている秘密がある。

しかも、それは私の想像を超えるものだった。

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