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Chapter 3: 隠された四人目の名前

「知らない女性……?」

咲希が小さく呟いた。

私は慌てて彼女の肩を抱いた。

調停室では、誰も声を出さなかった。

正樹だけが、その名前を見て固まっていた。

「違う」

彼はすぐに言った。

「それはただの取引先だ」

しかし声が震えていた。

裁判官は淡々と資料をめくった。

「取引先にしては不自然ですね」

「毎月同じ日に送金されています」

「そして、この女性の住所は……あなたが以前利用していた別宅と一致しています」

正樹の弁護士が息を飲んだ。

私は目を閉じた。

だからだったのか。

ここ数年、正樹が家に帰る時間が遅くなった理由。

急な出張。

意味不明な会食。

家族写真に写る時だけ優しい父親を演じていた理由。

全部が一本につながっていった。

でも、一番苦しかったのは浮気ではなかった。

正樹が子供たちに嘘を教え、家族を壊す道具にしたことだった。

調停が一時中断され、廊下に出た。

私は自動販売機の前で一人立っていた。

すると後ろから声がした。

「母さん」

振り返ると、拓海がいた。

昔なら、私はすぐに抱きしめていた。

でも今は違った。

「何?」

拓海は目を逸らした。

「俺……知らなかった」

私は静かに聞いた。

「何を?」

「父さんが、そんなことしてるなんて」

私は彼を見た。

「でも書類には署名したでしょう?」

拓海の顔が歪んだ。

「父さんが大丈夫だって言ったから」

「母さんには関係ないって」

私は悲しくなった。

怒りよりも。

「拓海」

「大人の言葉を信じることと、自分で選ぶことは違うのよ」

彼は何も言えなかった。

そこへ健太が来た。

「母さん……」

私は彼を見る。

健太は泣きそうな顔だった。

「俺、間違えた」

「父さんが勝つと思ってた」

「金がある方が正しいと思ってた」

私は答えなかった。

簡単に許せることではなかった。

その時、少し離れた場所から翔太の声が聞こえた。

「……母さん」

彼は震えていた。

「俺、咲希に言ったこと……」

私は彼を見た。

翔太の目から涙が落ちた。

「父さんが母さんから何も取られるなって言ってた」

「俺、それを自慢した」

「ごめん」

私は何も言わず、彼を見た。

17年間育てた息子。

私が熱を出した時、布団をかけてくれた子。

初めて自転車に乗った日に、泣きながら笑っていた子。

でも今、彼は間違った側に立っていた。

「翔太」

私はゆっくり言った。

「謝るなら、お母さんじゃない」

彼は顔を上げた。

「咲希に謝りなさい」

翔太は泣きながら頷いた。

その時、調停室のドアが開いた。

田中さんが入ってきた。

「由美さん」

私は振り返る。

田中さんの表情は険しかった。

「追加資料が見つかりました」

「正樹さんが隠していた口座です」

私は書類を受け取った。

そして、一枚目を見た瞬間、手が止まった。

そこには、さらに大きな送金記録があった。

でも問題は金額ではなかった。

最後の受取人欄。

そこに書かれていた名前を見て、私は息を失った。

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それは――

私が22年間、一度も疑ったことのない人物の名前だった。

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