Chapter 6: 娘に残された秘密
私はすぐに咲希の部屋へ向かった。
ドアを開けると、彼女は机で宿題をしていた。
いつも通りの14歳の女の子。
学校の話をして。
友達の話をして。
未来を夢見るはずの子。
なのに、大人たちは彼女まで巻き込んだ。
「咲希」
「少し聞きたいことがあるの」
彼女は顔を上げた。
「何?」
私は慎重に聞いた。
「お父さんから、何か書類にサインしてって言われたことはある?」
咲希の表情が変わった。
ほんの一瞬。
でも私は見逃さなかった。
「……ある」
心臓が跳ねた。
「いつ?」
「去年」
「お父さんが言ったの」
咲希は小さな声で続けた。
「会社の手続きだから大丈夫って」
私は拳を握った。
「あなた、サインしたの?」
咲希は首を振った。
「怖くて……」
「お兄ちゃんに聞いたら、大丈夫って言われたけど」
「なんとなく嫌な感じがして、名前を書かなかった」
その瞬間。
私は初めて少しだけ救われた気がした。
咲希は、正樹の言葉をそのまま信じなかった。
自分で考えた。
自分を守った。
翌日の調停。
正樹はまだ強気だった。
「娘の件は誤解です」
「未成年の子供の将来を考えて、資産管理をしていただけです」
私は彼を見た。
「咲希の名前を使って、会社のお金を隠すことが?」
正樹の顔が固まった。
「誰から聞いた?」
私は答えなかった。
裁判官が資料を見る。
「正樹さん」
「こちらの契約書には、咲希さんを受益者とした信託があります」
「しかし実際の管理者はあなたです」
「目的は何ですか?」
正樹は黙った。
初めて。
本当に言葉を失っていた。
私は静かに言った。
「あなたは子供たちを選ばせた」
「私に息子を一人選べと言った」
「でも、あなた自身は誰も選んでいなかった」
正樹を見る。
「あなたが選んだのは、お金だけ」
その瞬間。
正樹の隣に座っていた翔太が突然立ち上がった。
「父さん」
部屋中の視線が集まる。
翔太は震えていた。
「俺……聞いたことがある」
正樹の顔色が変わった。
「翔太、黙れ」
しかし翔太は続けた。
「父さんが誰かと電話してた」
「母さんと離婚したら、全部俺たちのせいにするって」
沈黙。
正樹が怒鳴った。
「子供のくせに何を言っている!」
翔太は肩を震わせた。
でも、もう目を逸らさなかった。
「父さん」
「俺たちは、父さんの道具じゃない」
その言葉で、正樹の顔が歪んだ。
22年間見たことのない表情だった。
怒り。
焦り。
そして恐怖。
その時、裁判官の電話が鳴った。
短い確認の後、裁判官は資料を見た。
「新しい情報が入りました」
「正樹さん」
「あなたの海外送金記録について、追加調査が必要です」
正樹が顔を上げる。
「海外?」
裁判官は静かに言った。
「はい」
「そして、その送金先には……」
一瞬の間。
「あなたの名前ではない、別の家族名義の口座があります」
私は息を止めた。
まだ終わっていなかった。
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正樹が隠していた本当の家族。
その存在が、ついに明らかになろうとしていた。