Chapter 14: 本当の黒幕
「誰かが正樹さんを利用していた」
田中さんの言葉が頭から離れなかった。
私はすぐに資料を確認した。
送金記録。
契約書。
会社設立の履歴。
そこには、見落としていた名前があった。
「……」
私は息を止めた。
その名前は、以前にも見たことがあった。
正樹の元弁護士。
そして、過去数年間、会社の資金管理を担当していた人物。
黒田。
彼は正樹の一番近くにいた。
正樹が「信頼できる男」と何度も言っていた人物だった。
私は彼に会うことにした。
小さな喫茶店。
黒田は落ち着いた様子で現れた。
「お久しぶりです、由美さん」
私は笑わなかった。
「あなたは知っていましたね」
黒田の表情が少し変わった。
「何をですか?」
私は資料を出した。
「正樹が資産を移していたこと」
「そして、その方法を教えたこと」
沈黙。
黒田はため息をついた。
「やはり分かりましたか」
その言葉で確信した。
「なぜ?」
黒田は窓の外を見た。
「正樹さんには欲があった」
「私は、その欲を利用しただけです」
私は怒りを感じた。
「家族を壊したんですよ」
黒田は冷静だった。
「違います」
「壊したのは正樹さん自身です」
その言葉は正しかった。
でも、彼も同じだった。
人の弱さを利用した。
「あなたは何を得たの?」
黒田は黙った。
そして、小さく笑った。
「会社です」
「正樹さんが失敗すれば、私は会社を安く買える」
私は驚いた。
「あなた……」
「正樹さんは、自分が全てを支配していると思っていた」
「でも実際は、彼も誰かに操られていた」
その日の夜。
私は正樹に会った。
「黒田さんのこと、知っていた?」
正樹の顔が変わった。
「何の話だ」
私は資料を見せた。
数秒。
正樹は動かなかった。
「……嘘だ」
初めて。
彼が本気で傷ついた顔をした。
「黒田が?」
「そう」
正樹は椅子に座り込んだ。
「俺は……」
彼は頭を抱えた。
「一番信じていた」
私は黙って見ていた。
「妻を疑って」
「子供を疑って」
「でも、あいつだけは疑わなかった」
正樹の声が震えた。
その時、私は少しだけ理解した。
正樹はずっと、人を信じる方法を間違えていた。
金を持つ人。
自分に都合のいい人。
自分を褒める人。
そういう人だけを信じた。
本当に大切にしてくれる人を見失った。
数ヶ月後。
黒田の不正も明らかになった。
正樹は証人として協力した。
以前なら、自分を守るために嘘をついただろう。
でも今回は違った。
「全部話します」
彼は言った。
「自分が間違えたことも」
「利用されたことも」
「逃げません」
その姿を見て、私は思った。
人は変われる。
でも、変わるには失うものが必要なのかもしれない。
ある日。
家族全員で食事をすることになった。
私。
咲希。
拓海。
健太。
翔太。
そして正樹。
最初は気まずかった。
誰も何を話せばいいか分からなかった。
でも、少しずつ会話が増えた。
翔太が言った。
「父さん」
正樹が顔を上げる。
「今度は、嘘つかないで」
正樹は頷いた。
「分かった」
咲希は静かに言った。
「約束して」
正樹は彼女を見る。
「もう、私を使わないって」
正樹の目に涙が浮かんだ。
「約束する」
その夜。
帰宅すると、咲希が言った。
「お母さん」
「家族って、不思議だね」
私は笑った。
「そうね」
「壊れることもある」
「でも、本当に大切なら、作り直すこともできる」
しかし、その翌朝。
私は一本の電話を受けた。
電話の相手は警察だった。
「由美さん」
「黒田さんの件で、追加の証拠が見つかりました」
「そして、その中に……」
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私は息を止めた。
「正樹さんが知らなかった、最後の秘密があります」