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Chapter 1: 破られた夢

卒業式の日、私は人生で一番幸せな瞬間を迎えるはずだった。 けれど、校庭の花壇の横に置かれたゴミ箱の中で、私の未来そのものが引き裂かれているのを見つけた。

風に舞う桜の花びら。 家族や友人の笑顔。 卒業証書を胸に抱いた私の写真が、学校の公式SNSに載る予定だった日。

私は卒業生代表として壇上に立ち、全校生徒の前で答辞を読むことになっていた。

「美咲、本当におめでとう。あなたなら絶対に大きな大学に行けると思ってた」

親友の彩花が、花束を抱えながら笑った。

「ありがとう。まだ夢みたいだよ」

私はそう答えながら、胸の奥で何度も確認していた。

これで人生が変わる。

家の小さな部屋で、夜遅くまで参考書を開いた日々。 弟や妹の宿題を見ながら、自分の課題を終わらせた日々。 母が「家のことも手伝って」と言うたび、眠い目をこすりながら頑張った日々。

全部、今日につながっていると思っていた。

卒業式が終わった後、私は母を探した。

「お母さん、どこ?」

スマホを見ると、母から一件のメッセージが届いていた。

『先に帰るね。夕飯の準備お願い』

その短い文章を見て、胸が少し沈んだ。

普通なら、娘の卒業式の日くらい、一緒に写真を撮るものじゃないのかと思った。

でも私は自分に言い聞かせた。

母は忙しいだけ。 きっと家に帰れば「おめでとう」と言ってくれる。

私は校舎裏の道を歩きながら、落ちていた封筒を拾おうとした。

その瞬間、ゴミ箱の中に見覚えのある紙が見えた。

白い封筒。

青い大学のロゴ。

私の名前。

「……嘘」

指先が震えた。

引き出した紙は、無残なほど細かく裂かれていた。

そこには、確かに書かれていた。

『全額免除奨学金 採用通知』

私が何百時間も勉強して勝ち取ったもの。

全国でも数人しか選ばれない特別な奨学金。

それを、誰かが破った。

「美咲?」

後ろから彩花の声がした。

私は急いで紙を隠した。

「何でもない」

「顔、真っ青だよ」

「大丈夫……ちょっと疲れただけ」

でも、大丈夫ではなかった。

家に帰るまで、頭の中では同じ疑問が繰り返されていた。

誰が?

どうして?

そして、なぜ母の家のゴミ袋の中に、これがあるの?

玄関を開けると、リビングからテレビの音が聞こえた。

母はソファに座り、弟の翔太のゲームを眺めていた。

「お母さん」

「おかえり。卒業式どうだった?」

母は顔も上げずに聞いた。

「私の奨学金の通知書、見た?」

一瞬だけ、母の手が止まった。

「……何の話?」

「大学の全額免除奨学金」

私は破れた紙をテーブルに置いた。

母の表情が変わった。

ほんの一瞬だった。

でも、私は見逃さなかった。

「これ、どういうこと?」

母はため息をついた。

「美咲、そんな大げさに騒がないで」

「大げさ?」

声が震えた。

「私の人生の話だよ」

母は冷たい目で私を見た。

「家族のことも考えなさい」

その言葉の意味が理解できなかった。

「何を言ってるの?」

母は立ち上がり、破れた通知書を手に取った。

「大学なんて来年でも行けるでしょ」

その瞬間、胸の奥が凍った。

「……来年?」

「そう。もう一度応募すればいいじゃない」

「でも、この奨学金は今年だけのものだった」

「細かいこと言わないの」

母はそう言って、紙を丸めた。

私は初めて、母の顔に見たことのない冷たさを感じた。

「お母さん……これ、誰が破ったの?」

沈黙。

時計の音だけが部屋に響いた。

そして母は、小さな声で言った。

「あなたには、家族を優先する責任があるでしょ」

その瞬間、私の中で何かが崩れた。

でも、まだ知らなかった。

母が私の未来を壊すためにしたことは、紙を破ることだけではなかった。

その夜、私のスマホに一通のメールが届いた。

大学の奨学金管理室からだった。

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件名を見た瞬間、息が止まった。

『奨学金辞退手続きについて――本人確認済み』

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