Amazed

Chapter 13: 最後の秘密

大学生活が始まってから、一ヶ月が経った。

新しい教室。

新しい友人。

新しい毎日。

以前の私なら、こんな未来を夢見ることさえ怖かった。

でも今、私は自分の名前で学生証を持ち、自分の選んだ道を歩いていた。

それでも。

心の奥には、まだ一つだけ消えない疑問があった。

母が隠していた最後の秘密。

あの封筒を渡してきた女性は、大学の学生支援担当者だった。

「美咲さん、これはあなたを責めるためのものではありません」

彼女は静かに言った。

「ただ、あなたが正しい判断をするために知っておく必要があります」

私は封筒を開けた。

中には古い記録が入っていた。

数年前の奨学金申請資料。

そして、一枚の通知書。

私は目を疑った。

「これは……」

担当者が頷く。

「あなたのお母様は、以前にも同じような手続きを行っていました」

「以前?」

「高校進学時です」

胸が締め付けられた。

高校。

私が本当は遠くの学校へ行きたかった時。

母に反対された時。

『家から通える場所にしなさい』

そう言われた時。

その裏側に、何かあったのだ。

書類を見る。

そこには、母が学校へ提出した家庭事情説明書があった。

『娘は家庭の事情により、自宅から離れる進学は困難です』

私は呆然とした。

「私は……そんなこと言ってません」

担当者は頷いた。

「学校側も当時、疑問を持っていました」

私は紙を握った。

「じゃあ、母はずっと……」

大学だけじゃなかった。

母は何年も前から、私の選択肢を少しずつ奪っていた。

その日の夜。

私は母へ電話した。

「元気?」

母の声が少し驚いた。

「美咲?」

「聞きたいことがある」

沈黙。

「高校の時のこと」

母はすぐに察したようだった。

「誰から聞いたの?」

「答えて」

母は長い間黙った。

そして小さな声で言った。

「……本当よ」

胸が痛んだ。

「どうして?」

「あなたが遠くへ行くのが怖かった」

「だから私の進路を変えたの?」

「あなたはまだ子供だった」

私は目を閉じた。

「でも、お母さん」

声が震えた。

「私は子供だったからこそ、大人に守ってほしかった」

「選択肢を奪ってほしかったんじゃない」

電話の向こうで、母が泣いていた。

「分かってる」

「今なら分かる」

その言葉を聞いても、簡単には戻れなかった。

「お母さん」

「何?」

「私、あなたを憎みたいわけじゃない」

母は息を止めたようだった。

「でも、私の人生を返してほしい」

沈黙。

「できるなら……」

母の声が震える。

「やり直したい」

私は窓の外を見る。

大学の夜景。

自分で選んだ場所。

「私も」

私は言った。

「やり直したい」

「でも、前と同じ関係には戻れない」

母は泣いた。

「分かってる」

電話を切った後。

私は封筒の最後のページを見た。

そこには、もう一つの記録があった。

母が大学に送った最後のメール。

その内容を読む。

『娘が私を必要としなくなるのが怖い』

私は息を止めた。

母は私の未来を奪いたかったのではない。

自分が捨てられる未来を恐れていた。

でも。

その恐怖のために。

母は私を傷つけた。

数日後。

私は家へ帰った。

久しぶりの実家。

玄関を開けると、母がいた。

以前のような緊張感はなかった。

「おかえり」

その言葉を聞いて、不思議な気持ちになった。

昔なら嬉しかった。

今は少し悲しかった。

「ただいま」

私は答えた。

母は小さな箱を持ってきた。

「これ」

開ける。

中には、私が小さい頃の写真。

そして、古い手紙。

「ずっと持ってた」

母は言った。

「あなたが初めて書いた手紙」

そこには幼い字で書かれていた。

『お母さん、いつもありがとう』

涙が出そうになった。

私は母を嫌いになりきれなかった。

でも。

愛していることと、傷つけられたことは両方存在する。

その夜。

母が突然言った。

「美咲」

「何?」

「あなたに言っておかなきゃいけないことがある」

私は母を見る。

「まだあるの?」

母は頷いた。

「奨学金を辞退した日のこと」

心臓が跳ねた。

母はゆっくり続けた。

「私は一人でやったんじゃない」

私は息を止めた。

「誰かに頼まれたの」

「誰に?」

母は目を伏せた。

そして、小さな声で名前を言った。

その名前を聞いた瞬間。

私は凍りついた。

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それは。

私が最も信頼していた人物だった。

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