Chapter 3: 隠された証拠
翌朝、私は約束の場所へ向かった。
駅前の小さなカフェ。
待っていたのは、大学の奨学金担当者だった。
「美咲さん、突然呼び出してすみません」
「証拠って何ですか?」
女性はタブレットを開いた。
「辞退手続きには、本人確認のための追加認証が必要でした」
画面には記録が表示されていた。
「あなたの登録メールではなく、別のメールアドレスが使われています」
「別の?」
「はい」
私は画面を見た。
そこにあった名前。
母の名前。
息が止まった。
「でも、どうしてそんなことができたんですか?」
担当者は静かに答えた。
「ご家族があなたの個人情報を長期間管理していた可能性があります」
私は拳を握った。
帰宅すると、母は何事もなかったように朝食を作っていた。
「どこ行ってたの?」
「証拠を見に行ってた」
母の手が止まった。
「証拠?」
「奨学金を辞退した証拠」
母はため息をついた。
「まだその話?」
「まだじゃない」
私はテーブルに資料を置いた。
「私の人生の話だよ」
母は資料を見た。
そして、驚くほど冷静に言った。
「だから何?」
その一言で、私の中の最後の期待が消えた。
「悪いと思わないの?」
母は椅子に座った。
「美咲、現実を見なさい」
「現実?」
「家族には役割があるの」
「私の役割は何?」
母は迷わず答えた。
「あなたは長女でしょ」
その瞬間、涙がこぼれた。
私はずっと信じていた。
母は厳しいだけ。
私のためを思っているだけ。
でも違った。
母が愛していたのは、私自身ではなかった。
私が家で果たす役割だった。
「私、大学に行く」
私は震える声で言った。
母は笑った。
「どうやって?」
「もう一度奨学金を探す」
「そんな簡単じゃない」
「分かってる」
「家はどうするの?」
私は答えなかった。
すると母の表情が変わった。
「あなた、本当に家族を見捨てるのね」
その言葉を聞いた瞬間、私は初めて怒りを感じた。
「違う」
私は母を見る。
「私を見捨てたのは、お母さん」
部屋が静まり返った。
その夜、私は古い箱の中からあるものを見つけた。
小学生の頃の日記。
最後のページに、母が書いたメモが挟まっていた。
『美咲は家族を支えるために生まれてきた子』
その文字を見た瞬間、背筋が冷たくなった。
私は知らなかった。
母はずっと前から、私の未来を決めていた。
大学に行くことではなく。
家を出ることでもなく。
ただ、家族のために犠牲になる未来を。
そして翌日、学校から一本の電話が来た。
「美咲さん、確認したいことがあります」
先生の声は震えていた。
「あなたのお母さんが、学校に提出した書類について……」
私は息を止めた。
「そこには、あなた本人が絶対に書いていないはずの署名がありました」
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そして先生は、最後にこう言った。
「美咲さん……あなたのお母さんは、奨学金だけではなく、別のものも隠している可能性があります」