Chapter 2: 午前2時の裏切り
メールを開いた瞬間、指が動かなくなった。
『あなたの意思により、奨学金辞退手続きが完了しました』
その下には、手続き日時が記録されていた。
午前2時14分。
私はその時間を覚えていた。
その夜、私は自分の部屋で大学の入学準備をしていた。
母はリビングにいた。
そして、家族全員が寝ていた時間。
私は画面を何度も見直した。
「本人の意思って……」
声が漏れた。
翌朝、私は大学の奨学金担当者へ電話をした。
「すみません。辞退した覚えがありません」
電話の向こうの女性は困ったように答えた。
「ですが、登録されたアカウントから手続きされています」
「私のアカウント?」
「はい。ログイン履歴もあります」
「誰がログインしたか分かりますか?」
少し間があった。
「ご家族など、パスワードを知っている方はいませんか?」
私は黙った。
家族。
その言葉が胸に刺さった。
電話を切った後、私は母の部屋へ向かった。
母は洗濯物を畳んでいた。
「お母さん」
「何?」
「大学のポータルサイトにログインした?」
母の手が止まった。
「急に何?」
「答えて」
母は視線を逸らした。
「あなた、何を疑ってるの?」
「午前2時14分。私のアカウントから奨学金の辞退手続きがされてた」
沈黙。
母の顔から少しずつ表情が消えていった。
「……知ってたのね」
その一言で、私は全てを悟った。
「やったの?」
母は怒ったように息を吐いた。
「美咲、あなたは何も分かってない」
「分かってないのはお母さんでしょ」
「家にはあなたが必要なの」
私は耳を疑った。
「何、それ」
母は畳んでいた服を置いた。
「翔太はまだ中学生。優奈も小学生。誰が面倒を見るの?」
「私じゃなくてもいい」
「誰でもいいわけじゃない」
母の声は強かった。
「あなたが一番しっかりしてるから」
その言葉は褒め言葉ではなかった。
ただの鎖だった。
「だから私の大学を奪ったの?」
母は眉をひそめた。
「奪ったなんて言い方しないで」
「じゃあ何?」
「家族を守るためよ」
私は笑いそうになった。
「私の未来を壊して?」
母は平然と言った。
「大学は来年でも行ける」
「その間、私は何をするの?」
「家族を手伝えばいいじゃない」
その瞬間、弟の翔太が廊下に立っていることに気づいた。
彼は気まずそうにこちらを見ていた。
「お姉ちゃん……」
私は彼に近づいた。
「翔太、知ってた?」
翔太は俯いた。
「……お母さんが、お姉ちゃんは家にいてくれるって言ってた」
胸が痛んだ。
「私が?」
「うん」
翔太は小さな声で言った。
「お母さん、お姉ちゃんがいなくなったら困るって」
私はその場に立ち尽くした。
私は家族のために頑張ってきた。
でも、家族は私の夢を守ってくれる存在ではなかった。
私を利用する理由になっていた。
夜、私は自分の部屋で荷物を整理した。
机の上には、卒業証書。
その隣には、破れた奨学金通知書。
涙が落ちた。
「どうして……」
私は初めて、自分のために泣いた。
その時、ドアの向こうから母の声がした。
「美咲、何してるの?」
私は答えなかった。
すると母は続けた。
「あなたは家族を捨てるつもり?」
その言葉に、胸が締め付けられた。
私はゆっくりドアを開けた。
「お母さん」
「何?」
「私の人生を捨てたのは、誰?」
母の顔が固まった。
しばらく沈黙した後、母は低い声で言った。
「あなた、そんな考え方をする子じゃなかったでしょう」
その瞬間、スマホが震えた。
知らない番号からだった。
震える手で画面を見る。
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メッセージには、たった一行だけ書かれていた。
『美咲さん、あなたのお母さんがしたことについて、もっと重要な証拠があります』