Amazed

Chapter 10: 裁かれる真実

「法的な対応が必要になる可能性があります」

その言葉が部屋に落ちた瞬間、誰も動かなかった。

母だけが、ゆっくりと椅子に座った。

まるで足の力が抜けたようだった。

「待ってください」

母の声は震えていた。

「私は……そんなつもりじゃ」

奨学金審査委員の女性は冷静に答えた。

「意図については、今後確認されます。ただ、本人の同意なしに進路に関する手続きを行ったことは重大です」

母は私を見る。

「美咲」

その声を聞いた瞬間、胸が痛んだ。

昔なら。

私はすぐに母の味方をしていた。

「大丈夫だよ」

「私が何とかする」

そう言っていた。

でも今は違った。

私は何も言えなかった。

「あなたから説明して」

母が言った。

「何を?」

「私があなたのためにしたことだって」

私は目を伏せた。

まだ母は、自分の行動を「愛情」だと思っている。

「お母さん」

私は静かに言った。

「私のためなら、どうして私に相談しなかったの?」

母は黙った。

「どうして嘘をついたの?」

「どうして私の名前を勝手に使ったの?」

一つ一つ言葉にするたび、胸の奥が苦しくなった。

母は涙を浮かべた。

「怖かったの」

その一言に、私は少し驚いた。

「何が?」

「あなたがいなくなること」

母は手を握りしめた。

「美咲が大学へ行ったら、もう帰ってこないと思った」

「だから?」

「だから……」

母は声を詰まらせた。

「止めたかった」

その正直な答えは、逆に私を傷つけた。

母は私の幸せを怖がった。

私が成長することを。

私が自分の人生を選ぶことを。

その日、大学側との面談が行われた。

私は一人で会議室に座っていた。

母は別室で話を聞かれていた。

担当者が資料を確認しながら言った。

「美咲さん、あなた自身に辞退の意思がなかったことは確認できています」

「はい」

「ただし、手続き上、一度完了した辞退を取り消すには審査が必要です」

私は頷いた。

「分かっています」

担当者は少し優しい表情になった。

「あなたの成績、活動記録、推薦内容は非常に高く評価されています」

その言葉を聞いた瞬間、涙が出そうになった。

誰かが。

初めて。

私自身を見てくれた。

「ありがとうございます」

面談が終わった後、田中先生が待っていた。

「よく頑張ったな」

私は首を振った。

「怖かったです」

「当然だ」

「母を責めることも……苦しいです」

先生は少し黙った。

「美咲」

「はい」

「許すことと、許して同じ場所に戻ることは違う」

その言葉が心に残った。

家に帰ると、母はリビングにいた。

以前のような強い態度ではなかった。

小さく見えた。

「美咲」

私は立ち止まる。

「何?」

母はしばらく黙った。

「私……間違っていたのかな」

その質問に、すぐ答えられなかった。

「分からない」

私は正直に言った。

「でも、お母さんがしたことは間違ってる」

母の目から涙が落ちた。

「私はあなたを守りたかった」

「でも私は守られてなかった」

その言葉で、母は顔を伏せた。

「私はずっと、あなたが幸せになるために頑張ってきたと思ってた」

私は静かに言った。

「幸せって、本人が選ぶものだよ」

母は何も言わなかった。

その夜。

私は部屋で大学の資料を広げた。

まだ問題は終わっていない。

奨学金の再審査。

家族との関係。

これからの生活。

全部、簡単ではない。

でも。

初めて、自分の未来を自分の手に戻した気がした。

翌朝。

大学から新しい連絡が届いた。

件名を見て、心臓が跳ねた。

『奨学金再審査結果について』

震える手でメールを開く。

そこには一文だけ書かれていた。

『審査委員会は、あなたの申請について重大な判断を行いました』

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そして、その下には――

『あなたの奨学金について、最終面談を実施します』

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