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Chapter 7: 父が残した真実

父の名前が表示された瞬間、時間が止まったように感じた。

私の父。

その名前を最後に見たのは、何年も前だった。

父は私が小学生の頃に家を出た。

母はいつも言っていた。

「お父さんは家族を捨てた人よ」

だから私は、父について考えることをやめていた。

恨むことも、期待することも。

ただ、いない人として受け入れていた。

でも今。

母の顔に浮かんだ恐怖は、私が知らなかった何かがあることを示していた。

「出ないの?」

私は聞いた。

母はスマホを握ったまま動かなかった。

「美咲、部屋に戻りなさい」

「嫌」

「これは大人の話よ」

「私の人生の話なのに?」

母の指が震えた。

その瞬間、田中先生が静かに口を開いた。

「美咲さんには知る権利があります」

母は先生を睨んだ。

「あなたは家族のことに口を出しすぎです」

「違います」

先生は落ち着いた声で答えた。

「私は、生徒の未来を守っているだけです」

母のスマホがまた震えた。

今度は留守番電話の通知だった。

母は諦めたように画面を見た。

そして、小さな声で言った。

「……久しぶりね」

私は息を止めた。

母が電話に出た。

「何の用?」

数秒間、母は黙っていた。

その表情が少しずつ崩れていく。

「そんな話、今さら……」

私は聞き取れない父の声を想像した。

母は怒ったように言った。

「あなたには関係ないでしょう」

しかし、その直後。

母の顔から血の気が引いた。

「……誰から聞いたの?」

沈黙。

「違う。私は美咲のために――」

母はそこで言葉を止めた。

そして電話を切った。

部屋には重い空気が残った。

「何を言われたの?」

私は聞いた。

母は答えなかった。

田中先生が封筒を閉じる。

「今日はこれ以上、無理に話す必要はありません」

でも私は首を振った。

「先生」

私は母を見る。

「私は知りたいです」

母は目を逸らした。

その夜、私は眠れなかった。

父のこと。

母の嘘。

そして、自分が知らない過去。

朝になった時、玄関のチャイムが鳴った。

私は驚いた。

母は玄関へ向かう。

数秒後。

聞き覚えのない、でもどこか懐かしい声がした。

「美咲」

その名前を呼ばれた瞬間、胸が苦しくなった。

私はゆっくり玄関へ向かった。

そこに立っていた男性。

少し白髪が混じった髪。

疲れた目。

でも、その目は私を見た瞬間、涙を浮かべた。

「……大きくなったな」

私は何も言えなかった。

父だった。

母はすぐに前へ出た。

「帰って」

父は首を振った。

「もう隠せないだろ」

その言葉に、母の顔が強張った。

「美咲に話す必要はない」

「ある」

父は私を見る。

「全部話す」

私は震える声で聞いた。

「どうして今まで連絡してこなかったの?」

父の表情が苦しそうに歪んだ。

「連絡しようとした」

「じゃあ、なぜ?」

父は母を見る。

「お母さんが、俺に会わせなかったからだ」

私は母を見た。

「……嘘」

母はすぐに否定した。

「信じないで」

父はポケットから古い封筒を取り出した。

「これを見てほしい」

中から出てきたのは、何枚もの手紙だった。

宛先は私。

でも、全部未開封だった。

「これは……」

父は悲しそうに言った。

「君が中学生になった時、高校に合格した時、そして今回の大学のこと」

私は手紙を一枚手に取った。

封筒には日付があった。

何年も前の日付。

「全部、届いてなかった」

父は頷いた。

「お母さんが止めていた」

私は母を見る。

母は黙っていた。

その沈黙が答えだった。

「どうして?」

母はしばらく黙った後、低い声で言った。

「あなたを守るためよ」

私は笑えなかった。

「またそれ?」

母は拳を握った。

「あなたは知らないの。父親と一緒にいたら、あなたはもっと苦労していた」

父が苦しそうに言う。

「俺は失敗した。でも、美咲を捨てたわけじゃない」

その時、父がもう一枚の書類を取り出した。

「そして、これも見てくれ」

私は紙を受け取った。

そこには大学名。

奨学金名。

そして、見覚えのある署名。

でも、その下に書かれていた日付を見て、私は息を呑んだ。

奨学金辞退手続きの日。

その日、母は一人で手続きをしたのではなかった。

書類の最後には、もう一人の名前があった。

私は震える声で読んだ。

「……お母さん」

母の顔が青ざめる。

「これは何?」

父が静かに言った。

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「美咲」

「君のお母さんが隠していたのは、奨学金だけじゃない」

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