Chapter 11: 自分の人生を選ぶ日
最終面談の日。
私は朝早く起きた。
鏡を見る。
少し疲れた顔。
でも、以前とは違った。
そこにいるのは、母の期待に合わせるためだけに生きていた少女ではなかった。
私は自分の未来を取り戻そうとしている。
大学へ向かう電車の中で、何度も深呼吸した。
怖かった。
もし失敗したら。
もし奨学金が戻らなかったら。
でも、もう以前の私ではなかった。
結果がどうであっても、自分のために戦った。
大学の会議室には、三人の審査員がいた。
その中には、以前電話で話した担当者もいた。
「美咲さん、今日は来てくれてありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます」
審査員の男性が資料を見る。
「あなたは高校三年間、非常に優秀な成績を維持しています」
「はい」
「しかし、家庭環境についても確認しています」
私は黙った。
「あなたは長期間、家族の世話を担っていましたね」
「はい」
「それでも学業を続けた」
男性は資料を閉じた。
「なぜですか?」
その質問に、私は少し考えた。
以前なら。
「家族のためです」
そう答えていた。
でも今は違う。
「自分の未来を諦めたくなかったからです」
部屋が静かになった。
「私は家族を大切にしています」
続ける。
「でも、自分の人生を失うことが愛だとは思いません」
審査員たちは黙って聞いていた。
「私は医療分野で学びたいです」
「困っている人を助けられる人になりたいです」
「そのために、この大学へ行きたいです」
面談が終わった。
結果を待つ時間は長かった。
数日後。
私はアルバイト先で働いていた。
スマホが震えた。
大学からだった。
「もしもし」
「美咲さん」
担当者の声。
「審査結果が出ました」
私は息を止めた。
「はい」
「あなたの奨学金は――」
一瞬の間。
「継続が認められました」
その瞬間、周りの音が消えた。
「……本当ですか?」
「はい」
涙がこぼれた。
「ありがとうございます」
電話を切った後、私はその場で泣いた。
悲しい涙ではなかった。
やっと。
自分の努力が自分のものになった涙だった。
その夜、家に帰ると母がいた。
私は伝えた。
「奨学金、戻った」
母は驚いた。
「本当に?」
「うん」
少しの沈黙。
母は小さく言った。
「よかったね」
その言葉を聞いて、胸が少し痛んだ。
昔なら、その一言だけで全部許していたかもしれない。
でも、傷は消えていなかった。
「ありがとう」
私は答えた。
「でも、お母さん」
「何?」
「私は大学に行く」
母の目が揺れた。
「……分かってる」
初めて。
母は止めなかった。
翌日、私は荷物を整理した。
必要なものだけを箱に入れる。
昔から使っていた机。
教科書。
写真。
そして、破れた奨学金通知書。
捨てようと思った。
でも、手が止まった。
これは傷の証拠ではない。
私が乗り越えた証拠だった。
その夜、父から電話が来た。
「おめでとう」
「ありがとう」
少し沈黙。
父が言った。
「美咲」
「何?」
「実は、まだ話していないことがある」
私は眉をひそめた。
「また?」
父は苦しそうに笑った。
「今度は、君を傷つけるためじゃない」
「何なの?」
父の声が低くなった。
「お母さんが、君の奨学金を辞退した理由は……家族の世話だけじゃない」
私は息を止めた。
「どういう意味?」
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父は答えた。
「お母さんには、君に絶対知られたくない別の理由がある」