Chapter 14: 壊れた家族の再生
「……嘘」
私は呟いた。
母が口にした名前。
それは、田中先生ではなかった。
父でもなかった。
私の祖母。
母の母親だった。
「おばあちゃん?」
母は頷いた。
「最初は反対した」
「でも……」
母は苦しそうに話し始めた。
数ヶ月前。
祖母は母に電話をした。
『美咲を大学へ行かせたら、あなたは一人になる』
その言葉。
母は聞いてしまった。
そして、その恐怖に飲まれた。
「でも、最終的に決めたのは私」
母は言った。
「誰かのせいにするつもりはない」
私は黙って聞いた。
それは初めて聞く、母自身の責任を認める言葉だった。
翌日。
私は祖母に会いに行った。
小さな家。
昔から何度も訪れた場所。
祖母は私を見ると、少し驚いた。
「美咲」
「話があります」
祖母は何も言わず、部屋へ通した。
「お母さんから聞いた?」
「はい」
祖母はため息をついた。
「あなたのお母さんは弱い子だった」
その言葉に、私は眉をひそめた。
「だから何ですか?」
祖母は黙った。
「弱いから、私の人生を壊していいんですか?」
祖母は視線を逸らした。
「そんなつもりじゃ」
「でも、結果は同じです」
私は涙をこらえた。
「私は家族を大切にしたかった」
「でも、家族のために自分を失うことは違います」
祖母は何も言わなかった。
帰り際。
祖母が小さな声で言った。
「美咲」
振り返る。
「あなたのお母さんは、あなたを愛していた」
私は答えた。
「知っています」
「でも」
一呼吸置く。
「愛しているなら、自由にすることも必要です」
祖母は泣いた。
その後。
母は少しずつ変わり始めた。
弟や妹の世話を、全部私に頼らなくなった。
自分で家のことをするようになった。
そして、初めて私に聞いた。
「大学は楽しい?」
その質問に、私は驚いた。
昔なら。
母は必ず続けていた。
「でも家のことは?」
「いつ帰ってくるの?」
でも今は違った。
「うん」
私は笑った。
「大変だけど、楽しい」
母は嬉しそうに頷いた。
「そう」
短い言葉。
でも、それは大きな変化だった。
大学では、私は新しい活動を始めた。
家庭の事情で進学を諦めそうな学生を支援するボランティア。
自分と同じように。
誰かに未来を決められそうな人を助けたかった。
ある日。
活動中、一人の高校生が相談に来た。
「親が大学に行くなって言っています」
その言葉を聞いた瞬間。
昔の自分を思い出した。
私はその子に言った。
「あなたの人生を決めるのは、あなた自身だよ」
その夜。
私は久しぶりに母へ連絡した。
「今日、相談を受けた子がいた」
母は聞いていた。
「美咲みたいね」
その言葉に、少し笑った。
「そうかも」
母は静かに言った。
「あなた、本当に変わったね」
「うん」
「私のおかげじゃないね」
その言葉に驚いた。
母が初めて言った。
「あなた自身の力ね」
私は涙を拭った。
それは、ずっと聞きたかった言葉だった。
でも、その時。
大学から新しい知らせが届いた。
メールを開く。
『学生代表スピーチ候補者選出のお知らせ』
私は驚いた。
また。
人前で話す機会。
でも今回は違った。
誰かに決められた役ではない。
自分で選んだ未来だった。
そして数週間後。
私は壇上に立った。
多くの学生の前。
マイクを握る。
以前の卒業式とは違う。
あの日、私は未来を奪われた。
でも今日。
私は自分の声で未来を語る。
スピーチの最後。
私は言った。
「誰かに愛されるために、自分を失わないでください」
会場は静かだった。
でも。
その言葉は、確かに誰かの心へ届いた。
そして舞台を降りた後。
私のスマホに一通のメールが届いた。
送り主を見て、私は驚いた。
それは母だった。
May you like
本文には短い一文だけ。
『あなたを誇りに思う』