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Chapter 12: 母が隠した過去

父の言葉が頭から離れなかった。

「別の理由」

その意味を考えながら、私は眠れない夜を過ごした。

母はなぜ、そこまでして私を家に残そうとしたのか。

家族のため。

それだけではなかった。

数日後。

私は父と会うことにした。

駅近くのカフェ。

父は以前より疲れて見えた。

「話して」

私は言った。

父はコーヒーを見つめた。

「お母さんは、昔から不安を抱えていた」

「何に?」

「一人になること」

私は黙った。

「でも、それだけじゃない」

父は鞄から古い書類を出した。

「これは離婚前の資料だ」

私は驚いた。

「離婚?」

父は頷いた。

「本当は、俺たちはすぐに離婚する予定ではなかった」

「じゃあ、なぜ?」

父はためらった。

「お母さんが、ある条件を出した」

「条件?」

「美咲を自分の元に残すこと」

私は眉をひそめた。

「私を?」

「そう」

父は続けた。

「お母さんは言った。美咲は自分が育てる。俺には関わらせないって」

胸が苦しくなった。

「どうして?」

父は静かに答えた。

「君が俺を選ぶと思ったからだ」

その言葉で、過去の記憶が蘇った。

父と過ごした小さな時間。

休日に公園へ行ったこと。

一緒に料理をしたこと。

でも、それらは突然消えた。

母は言った。

「お父さんはあなたを置いて行った」

私はずっと信じていた。

でも。

本当は違った。

「お母さんは、私を父から離したかった?」

父は頷いた。

「そして、君を自分だけの家族にしたかった」

私は目を閉じた。

その日の夜。

私は母に聞いた。

「お父さんと離れた本当の理由は何?」

母の顔が固まった。

「誰から聞いたの?」

「答えて」

長い沈黙。

そして母は座った。

「……怖かったの」

「また?」

「本当に怖かった」

母の声は弱かった。

「あなたが、お父さんと一緒に行ってしまうこと」

私は聞いた。

「だから嘘をついたの?」

母は涙を流した。

「あなたしかいなかったから」

その言葉を聞いても、昔のようには戻れなかった。

「お母さん」

私は言った。

「私はあなたの所有物じゃない」

母は泣いた。

「分かってる」

「今は分かってる」

その言葉は初めて聞いた。

でも、遅すぎた。

「じゃあ、どうして?」

母は答えた。

「変わるのが怖かった」

その夜、母は初めて謝った。

「ごめんなさい」

短い言葉。

でも、何年も待っていた言葉だった。

私は泣いた。

でも、すぐに許すことはできなかった。

傷は、謝罪だけでは消えない。

数週間後。

私は大学へ向かう準備を終えた。

玄関に大きな荷物。

母は静かに見ていた。

「美咲」

「何?」

「元気でね」

私は頷いた。

「お母さんも」

玄関を出る。

振り返る。

そこには、昔のような強い母ではなく。

間違いを認めようとしている一人の人がいた。

電車に乗り、新しい場所へ向かう。

窓の外の景色が流れていく。

私はスマホを見る。

大学から新しい通知が届いていた。

『入学前特別プログラムへの参加について』

その下に、担当者からの個別メッセージ。

『あなたの経験を、同じように悩む学生へ伝えてほしい』

私は画面を見つめた。

そして気づいた。

奪われたと思っていた未来は。

本当は、私が取り戻すために残されていた。

しかし、その数日後。

大学で新しい生活を始めた私の前に、一人の女性が現れた。

その人は私の名前を呼んだ。

「美咲さん」

振り返る。

女性は封筒を差し出した。

「あなたのお母様について、まだ確認できていないことがあります」

封筒の表には、見覚えのある文字。

『過去の奨学金記録』

そして、その日。

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私は知ることになる。

母が隠していた最後の秘密を。

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