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Chapter 10: 黒田の最後の脅迫

黒田真人が去った後も、私は窓から動けなかった。

あの笑顔。

まるで全部を知っている人間の顔だった。

怖かった。

でも、それ以上に腹が立った。

私の人生。

私の家族。

私の祖母が守ろうとしたもの。

全部を、この男は自分の都合で壊そうとしている。

父はすぐにカーテンを閉めた。

「咲希」

「……うん」

「今から、一人で外に出るな」

父の声は真剣だった。

私は頷いた。

以前なら。

「大げさだよ」と笑っていたかもしれない。

でも今は違った。

私の知らないところで、十年以上前から誰かが動いていた。

そして、その中心に私がいた。

神谷さんはテーブルに座ったまま、深刻な表情をしていた。

「黒田は追い詰められています」

父が聞く。

「なぜ?」

「彼が隠していたものが、次々と見つかっているからです」

高橋さんが資料を見る。

「悦子さんからの送金記録」

「信託口座への不正アクセス」

「そして、過去の投資詐欺」

彼女は紙を並べた。

「全てが一本の線で繋がっています」

私は聞いた。

「でも、どうして祖母はそこまで分かっていたんですか?」

神谷さんは少し黙った。

「あなたのおばあさんは、黒田を昔から知っていました」

父が顔を上げる。

「母さんが?」

「はい」

「いつ?」

神谷さんは答えた。

「あなたのお母さんが亡くなる少し前です」

私は息を止めた。

「母は何を知ったんですか?」

神谷さんは手を握り締めた。

「黒田が、人の弱みを利用してお金を奪っていたこと」

「それだけ?」

「違います」

彼は私を見る。

「黒田は、あなたのお母さんにも近づいていました」

父の表情が変わる。

「まさか」

「彼女は断りました」

神谷さんは続けた。

「だから黒田は、彼女が持っていた情報を恐れた」

私は聞いた。

「どんな情報?」

神谷さんは答える前に、父を見た。

「あなたのお母さんは、黒田が複数の人間から金を集めていた証拠を持っていました」

高橋さんが頷く。

「だから祖母様は、咲希さんの資金だけでなく、別の証拠も守っていた」

私は祖母の日記を思い出した。

『本当の証拠は、咲希自身の中に残っています』

まだ意味が分からなかった。

その時。

悦子が部屋に入ってきた。

以前のような強気な態度はなかった。

「私も話す」

父は冷たく見る。

「今さらか」

悦子は俯いた。

「分かってる」

「なら何を?」

彼女は震える声で言った。

「黒田が最初に私に近づいた理由」

全員が黙る。

「彼は最初から、あなたのお父さんのお金が目的だった」

父の顔が険しくなる。

「俺の?」

「違う」

悦子は首を振った。

「あなたのお母さんの遺産」

私は驚いた。

「祖母の?」

「そう」

悦子は続けた。

「黒田は、美智子さんが大きな資産を管理していることを知っていた」

父が聞く。

「それでお前を利用したのか」

悦子は頷いた。

「私は最初、何も知らなかった」

「でも咲希の口座を見つけた」

悦子は目を閉じた。

「黒田は言った」

「何を?」

「そのお金を使えば、全部解決すると」

部屋が静まる。

私は怒りを感じた。

でも。

同時に疑問もあった。

「じゃあ、なぜ車を買ったの?」

悦子は結衣を見る。

「結衣が……」

結衣は涙を浮かべた。

「私?」

「あなたの生活を楽にしたかった」

「でも、それで咲希が……」

結衣の声が震えた。

悦子は何も言えなかった。

その日の夜。

高橋さんは新しい情報を持ってきた。

「黒田さんの居場所が分かりました」

父が聞く。

「どこだ」

「近くです」

私は背筋が寒くなった。

「近く?」

高橋さんは頷いた。

「彼は逃げていません」

「なぜ?」

「待っているんです」

「何を?」

高橋さんは私を見る。

「咲希さんが、自分から証拠を取りに来ることを」

その瞬間。

私のスマホに通知が来た。

知らない番号から。

写真が一枚。

そこには。

祖母の家。

そして。

赤い丸で囲まれた場所。

その下にメッセージ。

『お前の祖母は、最後の証拠をここに隠した』

『取りに来い』

『一人で』

父が画面を見る。

「行くな」

私は黙った。

でも。

心の奥で何かが決まっていた。

祖母が残したもの。

母が守ったもの。

全部知りたい。

私は父を見る。

「私が行く」

父は首を振った。

「ダメだ」

「でも」

「咲希」

父の声が震える。

「もう二度と、お前を失うわけにはいかない」

その言葉を聞いた瞬間。

私は初めて理解した。

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父もまた。

ずっと何かを失う恐怖と戦っていた。

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