Chapter 6: 母の死の真実
父はしばらく動かなかった。
まるで時間が止まったようだった。
「悦子」
低い声。
「今の言葉をもう一度言え」
悦子は震えていた。
「私は……」
「もう一度」
父の声が強くなる。
「母さんの死に何が関係している?」
悦子は目を伏せた。
私は父の横顔を見た。
今まで見たことのない顔だった。
怒りより。
恐怖。
「黒田が……」
悦子がゆっくり話し始める。
「黒田が、昔あなたのお母さんの会社の担当だった」
父が聞く。
「それで?」
「彼は投資話を持ちかけた」
「母さんに?」
「違う」
悦子は首を振った。
「私に」
私は息を止めた。
「あなたが?」
悦子は涙を流した。
「私は騙されたの」
その言葉に、父は冷たく返した。
「だから咲希の金を使ったのか?」
悦子は黙った。
答えられない。
高橋さんは静かに聞いていた。
「つまり、黒田さんへの送金は借金返済ですか?」
悦子は頷いた。
「最初は返せると思った」
「しかし?」
「彼は……どんどん要求してきた」
私は唇を噛んだ。
でも、一つ疑問が残った。
「それなら、どうして祖母のお金を使ったの?」
悦子は私を見る。
「……」
「答えて」
しばらくして。
彼女は言った。
「あなたのおばあさんが、その口座を守っていると知らなかった」
「知らなかった?」
「黒田が言ったの」
悦子の声が震える。
「その口座は自由に動かせるって」
父が怒りを抑えながら聞いた。
「黒田はお前を利用した」
「分かってる」
「分かっていたなら止めろ」
悦子は泣いた。
「怖かったのよ」
その言葉だけは、本当なのかもしれなかった。
でも。
私は許せなかった。
怖かったから。
私の未来を奪った。
その事実は変わらない。
高橋さんが電話を取り出した。
「黒田真人さんについて、さらに確認する必要があります」
「何を?」
父が聞く。
「彼は現在、国内にいません」
「逃げた?」
「はい」
私は驚いた。
「じゃあ、お金は?」
高橋さんは首を振った。
「まだ分かりません」
その時。
父のスマホが鳴った。
知らない番号。
父は出た。
「もしもし」
数秒。
父の顔が変わった。
「……誰ですか?」
私は嫌な予感がした。
父はスピーカーに切り替えた。
男の声。
落ち着いた声だった。
『佐藤さんですね』
父は答えない。
『お母様の件で、話があります』
私の背筋が伸びた。
父が聞く。
「黒田真人か」
電話の向こうで、男が笑った。
『彼について知りたいなら、私の話を聞くべきです』
「何者だ」
少し沈黙。
そして男は言った。
『私は、あなたのお母様が最後に会っていた人間です』
父の顔が強張る。
「母が?」
『はい』
私は電話を見つめた。
祖母が最後に会っていた人物。
それは。
黒田ではなかった。
男は続けた。
『そして、咲希さんについても知っています』
私の名前が出た瞬間。
心臓が跳ねた。
父が立ち上がる。
「娘に何の関係がある」
電話の向こうで。
男は静かに答えた。
『あなたはまだ知らないんです』
『咲希さんが、本当は誰の娘なのか』
その瞬間。
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部屋の全員が凍りついた。
電話はそこで切れた。